誘惑
03
「おかえり友美。お、友一も一緒か?」

友一たちが家に帰ると、頼人がリビングのソファーでくつろいでいた。

「ちょっと、何してんのよ。」

「ゴメンゴメン。最近休みが多くて。」

「そのうち仕事クビになるんじゃない?」

「おいおい、怖えぇこと言うなよ。」

頼人は笑いながら起き上がった。

「友一、着替えよ。」

友美は少し濡れた上着を脱ぎながら友一に手招きした。

「う、うん・・・分かった。」

友一は友美と共に二階へ上がった。

「友一の奴、何かあったな・・・」

一人になった頼人は、ポツリとつぶやいた。


                 ◇

「ねえ。」

友一が着替えている途中、背後でシュルシュルと音を立てながら友美が話しかけて来た。

「あの子、なんか怪しくない?なんて名前だっけ・・・」

「綾巴さん?」

友一が振り返りながら言うと、下着姿の友美が、

「あ、そうそう。なんか変じゃない?」

と言ってきた。
友一はすぐさま前へ向き直して、

「そうかな?優しくていい人だと思うよ。綺麗な子だし。」

と言った。

「だから、それが怪しいって言ってるの!」

「どうして?」

「どうしてって言われても・・・ほら、美しいものには刺があるって言うじゃん。」

友美は少しつまりながら答えた。

「そんなの、理由にならないよ。とにかく、綾巴さんは悪い人じゃない!」

そう言って、友一はまだ完全に着替えていないまま、下に駆け下りた。

今まで、姉として友一と口げんかすることは幾度となくあった。しかし、強い口調、恐ろしいほどに本気な目を見るに、先ほどの友一は何かが違っていた。

「・・・・・」

聞く耳を持たない友一に、友美は謎の危機感を覚えた。














darkhero ( 2014/06/11(水) 17:18 )