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「いやぁ、お前やるなぁ。尊敬するわ。」
舞台裏で常夫が洋祐に話しかけている。
「ホント、すごいよねぇ・・・半日であんなクオリティの歌なんて作れないよ、普通。」
奈和も同じく感心している。
「いやいや。歌詞の元がちゃんとしてたから、イメージしやすかった・・・っていうか、まあそんな感じだよ。」
洋祐は照れながら言った。
と、その時、
「あっ、牧野くーん、阿弥ちゃーん!」
奈和が遠くを見ながら手を振った。
「野木君、お疲れ様。」
「すごい人気だったね!」
阿弥が洋祐に軽く拍手をしながら言い、友一も彼を褒め称えた。
「ありがとう。マジでやってよかったよ。」
洋祐はみんなに一礼すると、
「それじゃあ、みんなにサインしてくるから、これで。」
と勝ち誇ったような顔で手を振り、その場を去った。
「じゃあ、俺も片付けしてくるわ。閂も込みでさ。」
友一と阿弥はハッとしたが、すぐに安心した。
「ゴメン、頼む!」
友一が焦り気味で言うと、常夫は背を向けて走ったまま手を振り、走って言った。
「じゃあ、僕もクラスの片付け手伝って来る。」
友一もどこかへ行き、阿弥と奈和だけが残された。
「それにしても、私たちの事、よく知ってるなあ。」
会場の客の多くが涙した歌詞。それの元ネタが自分達であるなら、結構詳しく知っていないとあんな歌詞は出来ない。そう思ったのである。
「ああ、あれね・・・実は、私が教えたんだ。」
奈和が、若干申し訳なさそうに言った。
「えっ、そうなの?いつ教えたの?」
「準備日の時。私、実行委員だったから、野木君とよく打ち合わせしてたんだよね。それで彼と仲良くなって、二人の話をしたんだ。」
「そうなんだ・・・」
「黙って野木君に言った事、ごめん・・・」
「別にいいよ。」
二人はそんな話をした。
「ああ、それと・・・」
奈和は続けた。
「何かあったら、私でよければ相談に乗るからね。私、絶対に阿弥ちゃんの事、裏切ったりしないから。」
「え・・・」
「ぶっちゃけ私たちのこと、何ていうか・・・あんまり信用してなかったんでしょ?」
奈和は分かっていたのだ。自分がみんなを信じきれずに、“友達の輪”に入りきれてなかった事を。それで、今まで別のクラスであるにもかかわらず、自分と仲良くしてくれていた。
そのことに気づいた瞬間、目から滝のような涙が出てきた。
「奈和ちゃん・・・ありがとう・・・」
そう言いながら抱きついてきた阿弥を、奈和は涙目になりながら、優しく抱きしめた。