05
友一は阿弥を引き上げた。するとすぐに、
「牧野君、後ろ!」
阿弥が怯えた顔で後ろを指差した。振り返ると・・・
「ハーッ、ハーッ・・・アァァァァ!」
さっきのナイフ男がこちらに突っ込んできた。しかし、友一はそれをかわしつつ、もう一度パンチを入れた。いわゆる“カウンターパンチ”である。
もちろん普段はこんなことは出来ない。しかし、今日は何かが違った。なぜか自分が思っている以上の力が体の中から湧き出ていた。スポーツ用語では、このことを“ゾーンに入る”、または“フロー状態”というらしい。
ナイフ男はまたも音を立てて崩れ落ちた。その瞬間・・・
ウォォォォォォ!!!
友一たちのいる階は歓声に溢れた。
「牧野マジかよ!」
「すげえぞ!牧野!」
「かっこいい〜」
周りの生徒たちは友一を取り囲み、彼を称えた。
「ねぇ、牧野君!」
奈和が咲良とともに、阿弥を友一の前まで連れてきた。
「今チャンスじゃない?」
奈和が思わせぶりな感じで言ってきた。
正直、いきなり告白する勇気なんてない。しかし、友美が言っていた、
“自分から気持ちを伝えないと、何も進まない。”
という言葉を思いだし、腹をくくった。
「柴田さん・・・僕は、ずっとあなたが好きでした。僕でよければ、ずっと一緒にいてくれませんか?」
ありがちな言葉だが、友一は本気だった。
すると、阿弥は少しだけ涙しながら、
「私のこと・・・ずっと想っててくれてたんだね・・・ありがとう。こちらこそ、ずっと一緒にいてほしいな。」
と言って、涙に濡れた手で友一の涙を握り締めた。
その瞬間、ナイフ男が倒れたとき以上の歓声が、学校中に鳴り響いた・・・