{現実逃避}
なぜ「洋介君」ではなく「洋くん」なのか、それを一度考え出すと止まらなかった。
そしてどんどん考えていくうちに、頭の中ではそんなはずないと分かっていても共通点しか思い浮かばなくなっていた。
洋介はソファーで頭を抱え息を切らせながら考えていたが、やがて落ち着いたのか深いため息をつくとテレビの電源を入れた。
「だあぁ! どうせ考えたって分からん!」
考えて考えてたどり着いた答えが、現実逃避だった。
ただし洋介の心の中には自分を捨てた人かもしれないという可能性を知ってしまった今、他の人と変わらずに接せられるかどうか不安があった。
「……そうか、極力落ち着いて接せればいいのか!」
いかにも妙案を思いついたという感じで言った洋介。
だがこの‘極力落ち着いて接しる’ということが、波乱を起こすことを洋介はまだ知るよしも無かった。
そして、次の瞬間洋介はテレビの画面から目が離せなかった。
『すみません。ここで速報です。今日の48グループコンサートにおいてのサプライズ発表で、48グループの弟分グループがデビューしました。』
自分たちのことが全国ニュースになっていたからだった。
『このグループ名はTrump、男性3人のグループで年齢はすべて16歳とのことです。ーーー』
つい数時間まえの自分たちが歌ってる姿の映像が流れていた。
すると大我から電話がかかってきた。
「もしもし?」
「もしもし洋介か! お前いまニュース見てる!?」
「あぁ……ちょうど見てるよ」
「お、俺たちが、俺たちがニュースになってる!」
その言い方は止めてくれ。悪いことをした気分になる。
テレビの映像は流れていき、大我が一人でアップで映ったところが流れた。
「うお! 俺が、映ってる!」
「分かったから……やかましいから切るぞ?」
「え、ちょっとまっーーー」
切り際になんか言ってたような気もするが、切ってしまったものは仕方ない。
テレビも俺たちのニュースが終わったので電源を切り、ベランダに出てみることにした。
「明るいなーおい……」
もう大分遅い時間だというのに、町は明かるくむしろ別の町になったかのようだった。
どれくらい時間が過ぎたかは分からない、時間を気にさせないほどベランダから見る夜景には怪しい魅力があった。
「そういえば山本さんにメールの返信してねーな……」
彩にメールの返信をしてないことに気がつくと、その場でメールをうち始めた。
「呼び方は山本さんのお好きにどうぞ、っとこれでいいだろ」
返信メールを彩にうったとたんタイミングを見計らったように、背筋の凍るような冷たい風が吹き抜けた。