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「はあ? まだ仲直りしてない!?」
理佐は耳が張り裂けそうな声を上げると、呆れたように溜息を漏らした。理佐のその反応にバツが悪くなった俺は思わず目を逸らしてしまう。何やら小言をグチグチと漏らす理佐に仲直りしていないことを話したことを早速後悔した。男しては情けない限りだが、女の子との付き合い方が良く分からない俺にとって慎重に行動しようと必死なのだ。考え過ぎた結果、何も出来ていないのだ。
「この意気地なし」
「そんなに言うんだったら、何かアドバイスくらいくれよ。こっちだって真剣に悩んでるんだから」
「真剣に悩んでいるんだったら尚更よ。単にあんたはビビってるだけで、本気で考えてなんかない」
「……そんな訳ないだろ」
理佐の言葉に激しく否定できなかったのは自分の中でも納得してしまっている所があったからだ。
「単にビビっている」。そう言われてはぐうの音も出ない。相手の反応ばかりを無駄に予想して、話しかけることも携帯でメッセージを送ることも今では出来ていなかった。頭の隅ではこのまま自然消滅をするのかな、なんて諦めに似た未来も過ぎっていた。
本当に意気地なしだ。理佐の言い分はもっともだ。それに理佐の指摘に対して心の内で苛立っている自分にもっと腹が立つ。痛いところを突かれて機嫌を損ねる自分の性格に幼稚さを感じずにはいられなかった。
「はぁ……はいこれ」
「何だこれ?」
「これにでも誘って仲直りしなさいよ」
そう言って理佐から渡されたのは祭りのチラシであった。恐らくここらの地区では一番早い花火大会だろう。大々的に書かれた”3000発の花火が夜空に咲きます!”という見出し。
昔は家族や友達と行っていたが、年を重ねるごとに人混みが得意ではない俺にとっては苦痛になり今ではぱったり行かなくなった。出店もかなり多く、中規模ながらそこそこ賑わうイベントだ。
「これに誘うのかよ?」
「何かきっかけがないと動かないでしょ? 喧嘩したまま夏休みに入ったら自然消滅コース濃厚よ。夏休み前に行っといでよ」
「これで仲直りするのか?」
「グダグダ行ってないでまずは行動しなさいよ! 彼女のことだから嫌とは言わないでしょ? 向こうも仲直りする機会を掴めないだけで待ってるの。ここで男のあんたが仕掛けないでどうするのよ!?」
「……は、はい」
「分かったら今すぐ連絡!」
理佐に促され、急いで携帯を取り出し、メッセージの文を打った。最初は電話で誘おうと考えたが、やはりそれにもビビった俺はSNSという手段を取った。まさか、今まで非協力的だった理佐がここまで熱く語ってくるとは思いもしなかった。
思いがけない理佐に発破をかけられた俺はほんの少しだがこの膠着した状況を一歩踏み出した。
ぎこちない文章ではあるが、携帯に表示された「送信中」という文字がきっかけとなったのだ。
しかし、メッセージを送ってしまったという高揚感は霞のように消えていき、ある疑問が芽生えてしまう。
「え、ちょっと待って」
「どうしたの? まだ送ってないわけ?」
「いや、送ったけど……もしかしたら、とんでもないことをしてしまったかも」
「何よ、勿体ぶってんのよ。早く言いなさいよ」
”送信完了”という文字が映し出され、メッセージを送る画面に戻ると俺はとんでもない誤ちをしてしまったと疑問が確信へと変わってしまった。
メッセージを送る瞬間にチラと見えたトーク画面。上に表示された相手の名前は”梨加ではなかったのだ”。そう、俺はまったく違う人物に花火大会に誘うメッセージを送ったのだ。
「平手に送っちまった……」