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「えっ……?」
俺は瞬間、低く唸ったような声を残して固まってしまう。そんな平手は固まった俺を真っ直ぐな目で捉えていた。決して平手の言葉を聞き逃したのではない。
「私も好きだから」。平手ははっきりとそう言ったのだ。この好きをLIKEと勘違いするほど考え足らずではない。はっきりと言葉を汲み取ったからこそ、俺は今言葉に困っているのだ。
平手の目は真剣だ。真剣が故、それに対する言葉も生半可な気持ちでは返せない。どう答えるのが最善なのか。そればかりが頭の中を逡巡して、俺は上手く言葉にすることができなかった。狼狽えるように目線が右往左往落ち着かない俺は真っ直ぐで真剣な平手と目を合わせることができなかった。
「なーんて、嘘だけど!」
「は、はぁ!?」
「なに、まさか本気にしたの?
まさか! 冗談だよ〜。それにあんなに可愛い彼女がいるんだから悩まないできっぱり断るのが男でしょ!」
そう言って平手は手で口元を隠し、必死に笑いを堪えるように指摘する。そうとは知らず、本気で受け取ってしまった自分に言い様のない恥ずかしさを覚えてしまう。カッコつけて言葉を返さなくてよかったと、俺は心の中で安堵した。
平手は勢いよく膝の屈伸を使ってブランコを漕ぎ始めトン、とブランコから地面に飛び降りた。鮮やかな着地を決めた平手は体操選手のように両手を宙に掲げた。俺は思わず「おお……」と感嘆の声を上げてしまう。くるりと振り返った平手は優しく微笑みかけてきた。
「でもね、少しだけ嫉妬しちゃってる気持ちもあるんだ。なんだか幼馴染が取られちゃった気分」
「……なんだよ。それ」
「これでも応援してるんだよ? 何が原因で喧嘩したのか分かんないけどさ、仲良くやりなよ。
私の分まで……さ」
「お、おう。頑張ってみるよ」
「うん、その意気だよ!
寒くなってきちゃったから、もう帰るね。ちゃんと仲良くするんだよ! 心を落ち着かせるのもいいけど、風邪は引かないでね!」
平手は矢継ぎ早に言葉を投げかけると、嵐のように走り去っていった。その背中はどこか急いでこの場を離れようとする焦りのようなものが感じ取れた。平手の背中が見えなくなるまで、俺は走り去る平手の背を見送った。
再び公園がシンとした空気に包まれる。さっきまでの平手との会話が嘘のように俺は心にぽっかりと穴が空いてしまったように寂寥感でいっぱいだ。俺もこんな所に長く居ては風邪を引いてしまう。もうこの近くには梨加はいないだろうし、俺も帰るとしよう。
音を立てて垂れそうになった鼻水をすする。どうやら体を冷え切っているのか上手く体が動かない。ズボンのポケットに手を深く突っ込んで、俺は一人頼りない街灯に照らされた道を戻った。