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「ったく、どこ行ったんだよ!」
俺は家を飛び出した梨加を追って、辺りを探し回っていた。どこに行ったかなんて当てがある訳ではない。だが、今は追いかけないといけない気がしたのだ。未だ、梨加が急に家を飛び出した理由は分からないでいた。頭の片隅でその理由を模索しながら、梨加の姿を探した。だが、”梨加を探す”というよりは”探す”という行動を起こすことで少しでもこの状況の贖罪にでもなればいいと思っている汚い自分がいる。
梨加が家を飛び出した理由は分からないが、それを必死に探している自分は少しでも梨加のことを考えている。
見えない誰かに言い訳するように俺は走り回った。
やがて行き着いた場所はある公園であった。
見覚えのある懐かしい公園。そう、平手と幼い頃によく遊んだ公園だ。俺は誘われるかのようにブランコに座った。
鈴虫が鳴く夏の公園。
困り果てた俺は一人寂しく赤子のようにブランコに揺られた。誰もいない閑散とした公園に錆び付いたブランコの吊り具がキイキイと寂しげに鳴く。俺の気持ちとは裏腹に澄んだ夜空は満天の星空であった。
「はあ……何でこうなったんだろ」
いくら考えても梨加の気持ちが分からない。これだから女心というのはいつまで経っても掴めない代物なのだ。
果たしてこれは喧嘩というのだろうか。一般的に見れば喧嘩かもしれないが、当の本人の意見としてはこれが喧嘩と言われれば、首を捻ってしまうものだ、原因が分からないのだから喧嘩のしようがない。自分が謝るべきなのかどうかも分からないのだ。
一応メッセージは送ったがLINEの返信もない。
これでは八方塞がりだ。この近辺に梨加がいる可能性は無いに等しいのだが、何故かここから動く気がしない。
まるでブランコの椅子と尻がベッタリと接着剤でくっつけられているかのように気怠く重い感情が俺をこの場に拘束していた。
俺は身を委ねるように目を閉じた。目を閉じると一層、虫の音が大きく聞こえた。鋭敏になった聴覚に公園の砂を踏む足音が聞こえてくる。
俺は反射的にバッと顔を上げる。
それはもしかしたら梨加かもしれないという気持ちを含めての反射的な動きであった。
「……たっちゃん? こんなとこで何してるの?」
顔を上げた先にいたのは梨加ではなく、こうやって顔を合わせるのが随分と久し振りな平手であった。