04
「へぇー。あの子がそんな積極的だなんて思わなかったな」
「普段は物静かなんだけどね。たまにグイグイくる所があるんだ」
「いいじゃん、ロールキャベツ女子っていうの? 幸せそうじゃん」
「まあ、お陰さまで」
「なにニヤついてんの。ウェイターさんのくせにムカつく」
「くせにってやめてよ。くせにって」
弄られても不思議と嫌な気分にならないのは今が幸せだからだろう。
満更でもない俺は笑みを隠しきれなかったようだ。実際、梨加と付き合えているのは限りなく奇跡に近いことであり、自分の運を最大限に使って手に入れた現実なのかもしれないと思うばかりである。
渡邉さんは少し不服そうに口を尖らせ、「羨ましいな〜」と呟いていた。
「渡邉さんは彼氏作らないの?」
「うわっ、何それ。リア充だからって上から目線のつもり?」
「そんなつもりじゃないよ! ただ渡邉さんなら選び放題なのになって思っただけだよ」
「別に私、女王様じゃないんだから。ただまあ、寄ってくる男たち全員が魅力的な訳ではないし、なんなら私の表面上しか見てないような軽い奴らが多いし」
「ああ、まあ確かに。チャラ男とか多そうだね」
「そそ、おまけに自信満々なナルシストばっか。たまに先輩とか告ってくるし。年上ブランドだけじゃ惹かれないし、私はそんな簡単な女じゃないっての」
渡邉さんはこれでもかと今まで言い寄ってきた男たちの愚痴を漏らし始めた。渡邉さんは校内でも有名な美少女だ。その噂を聞いて多くの男たちは目を付けるが、その中でも堂々と狙ってくる男は勘違い野郎が多い、と渡邉さんは悪態を付いている。
まあ、確かに校内でも有名な美少女にアタックするとなれば並大抵の度胸がなければ無理だろう。ほとんどの男子が「自分には手の届かない高嶺の花」と思い止まるに違いない。
実際、俺は梨加と付き合うことになるなんて微塵も思いもしなかったし、期待もしなかった。徐々に彼女からのアプローチみたいな行動が見られるようになってからは、「もしや?」と感じることはあったが、それでも最後まで「自分に限ってそんなことは……」とネガティブな考えを持っていた。
「だからね、見てて安心するんだ。あなたたちカップルは。お互いに表面上の付き合いじゃないんだろうなー、って思うし」
「それって褒め言葉なのかな?」
「当たり前じゃん。だから羨ましいって思う。いつか私も中身を見てくれる人に会いたいな」
「会えるよ、渡邉さんなら」
「出た、上から目線。ウェイターさんのくせに」
「まったく言い方悪いなー」
「冗談だって。じゃあ、これからも幸せにね!」
渡邉さんは勢いよく席を立ち上がり、風のように去っていく。
まったくあの人は何しに来たのだろうか。ただ茶化しに来たのだったら相当暇人だぞ。
しかし、クルッと体を反転した渡邉さんはこちらに向かって、
「ライバル多いんだから、取られないよーにね!」
渡邉さんはそう言い残すと、図書室を後にしていった。
俺には「なに大声出してんの?」と言っていた割には自分も周りに聞こえるように捨て台詞を吐いていってるではないか。お陰で目に付く図書室を利用している生徒はジロジロとこちらを見ている。残された俺は羞恥を覚え、ノートを閉じ、そそくさと図書室を後にした。