夏物語
01
 夏の始まり。
 文化祭が終わり、鬱陶しい太陽がギラギラと幅を利かせている今日この頃。文化祭で慌ただしかった校内も落ち着きを見せていき、季節も夏に移り変わろうとしている。
 俺たちのクラスが立案したメイドカフェはかなりの反響を呼び、なんと模擬店での売上第一位を獲得してしまい、模擬店部門で優秀賞を貰ってしまうのである。まるで嵐のように過ぎ去った文化祭は高校初のイベントとして大きく胸に刻まれたのだった。




 そして、もう一つ。文化祭の前と後で大きく変わったことがある。




「達彦くんっ」




「おー、”梨加”。遅かったな」





「何か先生の話が長くって、待った?」





「いや、そんなにだよ。じゃ、帰ろっか」




「うん!」




 あの渡辺梨加が恋人になったということだ。
 後夜祭で打ち上げられる花火を眺めながら、告白されたあの日。梨加の気持ちを受け入れたあの日。自分の気持ちが一片も嘘偽りがないとは言い切れないが、今となってはこの結果で間違ってなかったとも思える。こうやって隣で梨加が笑っていられるこの瞬間は幸せだし、後悔はしていない。
 あの日告白された時に脳内に浮かんだ”違う人物”のことを忘れ去るように、梨加との思い出でかき消そうと俺は子供じみた毎日を送っていた。




「もうすぐ中間テストだね」




「あー、もう一ヶ月切ったのか。早いな」




「達彦くんは勉強してる?」




「いや全然。今の今まで中間の存在忘れてたくらいだし」




「そっか……。もしよかったら、一緒に勉強しない?」




「あ、ああ。いいよ。俺だって勉強しないとやばいし」




「……やった。頑張ろうね」




 上目遣いで頼まれて断る奴なんかいないだろ、と思うばかりの暴力的なまでの可愛さに俺は打ち抜かれてしまった。明日から梨加との勉強会か……。うん、結構良いイベントかもしれない。




 どこに出しても恥ずかしくない自慢の彼女の梨加。そんな彼女と平凡代表の俺が付き合っている事実はあっという間に広まり、当初はかなりの批判的な言葉が投げかけられたものだ。なんだかんだ言いつつ、俺と梨加の関係を応援してくれているクラスメイトには頭が上がらない。
 校内でトップを争うほどの人気を誇る梨加。当然想いを寄せていた男子も多く、その彼氏の俺を目の敵にする奴もいるわけで。そんな中でのクラスメイトのアットホーム感は本当に安心させられる。




 日差しが強くなっていき、照らされる陽の下。
 眩いこの光満ちた季節のようには簡単にいかないのが人生なのである。初夏の入口、俺と周囲の人間の物語が一気に加速し出す。目眩がするほどの「夏」が動き出す。

■筆者メッセージ
新章
ウォン ( 2017/09/19(火) 01:15 )