03
妙な緊張から何だかよくわからないまま休み時間は終わり、平手は自分のクラスへと帰っていった。
俺との再会に平手はかなり興奮した様子だったが、如何せん俺の方は平手の変わりように慣れることが出来ずに、よそよそしい態度を取ってしまっていた。自分の奥手な性格が心底嫌になる。
いつのまにか気付かない内に授業が始まっていた。周囲のクラスメイトは先生が黒板に書き出した問題を一生懸命板書している。俺もそれに習い、ノートにペンを走らせる。申し訳ないことをしてしまったと一人後悔する授業中、授業に身が入らないまま、そのまま授業は終わって、終業のチャイムが鳴り響いた。
ああ、またノートを映させてもらわないといけないな。ノートを見返すと、ほぼ居眠りをしていたのと変わらないぐらい集中していなかったのが分かる。気怠い作業に億劫を感じていると、数人の友達が勢い良く駆け寄ってきた。物憂い気分の俺とは対照的に友人は少し興奮気味の様子だ。
「おい、達彦。何であの子と親しげに話しているんだよ」
「抜け駆けしやがって。しっかり説明してもらうからな」
友人は口々に俺を責める。興奮気味なのだが、かなり不満げな表情だ。最初のうちは何を言ってるのか分からなかったのだが、話を聞く限りどうやら平手のことを指しているらしい。友人たちは、俺と平手が幼馴染の関係だということを知らない。嫉妬するのも分からなくはないが、俺としては迷惑な話だ。
詳しく話を聞いていくと、平手は隣のクラスで一番の人気を獲得しているのだという。あれほどの美形ならば、一番人気なのも頷ける。幼馴染の俺でさえも平手の可愛さにたじろいのだ。初対面の奴らが惚れるのは無理もないだろう。
それに平手は男女分け隔てなく接する、あまり人見知りをしない性格だ。本人は人見知りだ、と自分を卑下しているが、俺からしたらそんなのは微塵も感じない。要は性格の良さなのだ。例え人見知りだとしても、平手の性格の良さが知らない内に自分のファンを獲得しているのだろう。
平手の良くも悪くも積極的な性格に勘違いする男子も少なくないだろう。友人曰く、入学から一週間足らずで平手を狙っている男子は多いらしい。平手を狙う全員が牽制し合ってる中、そいつらからしたら俺が平手と仲良く話しているのはどうにも気に食わないらしい。
同じクラスの奴らは説明したら分かってくれたが、他のクラスの奴らはそうはいかなないだろう。
「ほら、見ろよ達彦。噂をすればなんとやらだ。」
ある友人が指差した方向を見やると、数人の他のクラスの奴らが廊下の方からかなり憎々しい目つきで俺を見ていた。なんとも早い展開だ。俺と平手が仲良く話していたという噂を聞きつけ、どんな奴なのかと見定めにきたのかもしれない。だからといって、クラスの友人たちのように、わざわざこっちから幼馴染だと説明するにはするのは面倒だ。それに、幼馴染だと説明しに行くなんてことをすれば、平手を意識していると誤解を招いてしまう。
もどかしいが、この場合は無視するのが一番の防御策なのだ。
「こりゃ、めんどくさいな……」
平手のお陰でえらく敵を作ってしまったようだ。順調に進んでいた学校生活も波乱の予感しかしない。
少年のようだった平手が何だか遠くに行ってしまったようで、俺は自分でも気付かないほど心の隅で寂しさを感じていた。現在高校生の平手を小学生の頃と比べて変化するのは女の子に対して失礼だろう。だが、平手の変化は過去と比べずにはいられない。一応、幼馴染としてかなり衝撃な成長だった。
厄介な状況になった平手との再会だったが、俺の心は少しだけ弾んでいた。決して今の状況にワクワクするほどクレイジーではない。至って理由は単純であり、やはり俺も男なんだなと思わされる。
表情では気怠い状況に眉を顰めているが、どんなに外見が変わっていても、昔と変わらずに話しかけてくれたことが俺としては嬉しかったりもしたのだ。