今週は激動の一週間だったと自分でも思う。


　日曜の美波さんとのデート、柚菜への告白から始まって、色々と出来事が集中して起きてた。

　おかげで気が休まることがなかった気がする。


　前の土曜は雨の中での重労働。日曜は早朝から深夜まで動き回っていたし、月曜は文化祭実行委員の仕事、火曜には頭に怪我をした挙句につまらない脅迫騒ぎに巻き込まれる。水曜は脅迫してきたはずの相手の愚痴を延々と聞かされるアホらしい一日を過ごし、木曜は文化祭実行委員の方で恐ろしい量の仕事をこなした。


　連日のことで、さすがの俺も疲れていたらしい。


　金曜日の朝。ひどい頭痛に襲われ、ベッドから起き出すのがつらくて仕方がなかった。


｢どうした、ひどい顔だな｣

｢まーオヤジの子だからな｣


　オヤジの言葉に軽口と返してやったけど、反論を食らう前に体温計を押し付けられてしまった。しかたなく測れば、38.0℃。


｢残念、今日は外出禁止｣


　オフクロからの無慈悲な宣告。

　どうしても学校に行きたいとごねるほど学校大好きっ子じゃないし、大人しく寝ることにした。


　一応、LINEを送っておく。相手はまず柚菜。それから友人何人かに熱で学校を休むと。


　返信は柚菜が一番早かった。


『発熱ですか!?　頭の怪我のこともあるから心配です。早く病院に行って、きちんと治して下さい』


　相変わらず絵文字の一つもない簡潔な返信。

　昨日は柚菜もきつかったはずで、体は大丈夫かと返したら、またすぐに返ってきた。


『私は全然大丈夫です。雅毅くんは自分の体調のことだけ考えて下さい』


　これまた簡潔な文面。

　柚菜らしいっちゃらしい。女子高生が送るLINEとは思えない文面も妙に可愛く思える。恋愛で馬鹿になっているからなのか、熱に浮かされているのかは判定が微妙なところだ。


　その後、迷った末に美波さんにも送っておいた。

　実を言うと送る気はなかった。


　言ってしまえば、美波さんと関わるのが面倒になっていた。

　美波さんのことは嫌いじゃないし、一緒にいたら楽しい。だけど、彼氏のことといい、いきなり別れると爆弾を投げつけておいて放置状態のことといい、今は関わるのが面倒くさいという感情の方が先に立っていた。

　それでも、今日も実行委員の仕事がある。多分、一人欠けるとあの仕事は回らない。今日はいっそ仕事は完全に休みにしてしまう方がいい気がしていた。


　今日は熱で休むこと、仕事は今日は休みにすること、月曜に行う予定の仕事のことを簡単にまとめてLINEした。

　もっとも、熱のせいで頭がうまく動かず、大した内容でもないはずなのに打つのに時間がかかってしまい、送信する頃には始業時間になっていた。


　意外にも遅刻とは無縁の美波さんはとっくに教室にいて、授業を受けているだろう。


　返信は期待していなかったし、むしろ来ないほうがいいという気すらある。体調に引きずられてそんな気分になっていたこともあるけど、やっぱり俺には美波さんのことで振り回されるのは負担が大きすぎた。


　柚菜とせっかく恋人同士になれた今、学園の憧れを一身に集めてしまうような格上の女性とそれを取り巻く人々まで相手にして日々を過ごすのは、そういうことに情熱を感じてしまうようなタイプの人間でもない限り、きついものがある。

　華麗な人間関係の中に身をおくのは俺には無理だった。


　そういうのが好きな人もいるし、美波さんに振り回されるなら自分が代わると言いだしそうな奴の顔もすぐに何人か浮かぶ。でも俺はそういうタイプの人間じゃない。


　そして、すぐに眠ってしまった俺が昼前に一度目を覚ました時、スマホには友人からの返信が何件か入っていたものの、美波さんからは何の連絡もなかった。

　そんなものかと、妙に安心したような、それはそれでさびしいような変な気分になったりした。