52
結局、今日はオヤジが迎えに来るまでの間、学校で待つことになったけど、その間は暇だから途中くらいまで柚菜を送ろうと提案してみた。
「ケガ人は今日くらい大人しくしてなさい」
怒られてしまった。その怒り方が妙に可愛いらしかったので、もうちょっとだけ怒らせてみたかったけど、多分それを言ったらしばらく口を利いてくれなくなりそうだったから諦めた。
素直にオヤジを待ってたわけだ。
携帯で話した時のオヤジの反応はさすが俺の親だった。
『頭は大袈裟に血が出るからな。噴き出してるんでもなければ心配いらんな』
俺と同じようなことを言った。だけど、続けて出た言葉が止めを刺した。
『母さんが見たら大騒ぎするだろうからな。覚悟してけよ』
オヤジも俺の想像で見た風景が同じように見えてたらしい。
『仕事が終わって迎えに行けるのは8時過ぎになる。それまで待ってられるか?』
「やることはいくらでもあるし、やってるうちにそのくらいになってると思うよ」
『学校はまだ閉まらないのか?』
「受験組の自習室が9時までやってるからね」
『なるほど。わかった、待ってろ』
実際に書類仕事をやっていると時間が経つのは早かった。
リストや申請書の処理をしてるうちに時間が過ぎ、いつの間にか8時を回っていた。
今日は美波さんはいない。生徒指導主任との談判が意外なほど体力を消耗させたらしい。
「今日、帰ってもいい?」
なんて珍しい申し出があった。
これまでも『もうやめるー』や『むりー』と言っても、帰るとはなかなか言わない人だった。
一番の功労者なので速やかにお帰しした。
ただ、書類仕事に限ってはいない方がはかどるのも確か。
こんなものは黙々と一人でやるに限る。美波さんがいると漫才が始まってちっとも進まない。
それでも8時を過ぎるとさすがに疲れてきたので俺は片付けて帰り支度を始めた。
オヤジが来るまでどれだけ時間がかかるかわからないけど、なんとなく外にいることにした。
深い理由なんて無い。この日はすっきりと晴れた日だったから、外に出て風にあたったら気持ちいいかな、などと思っただけ。
昇降口から外に出ると、朝晩がすっかり涼しくなった10月中旬の乾燥した風は適度に体温を奪って、確かに気持ち良かった。
ただ時間が経ってくると、傷はじんじんと痛んでくるのには参った。傷が熱を持ち始めたようで、鼓動に合わせてズキズキ痛む。
一人で顔をしかめつつ、プラプラと学校の周辺を歩くことにした。