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美波さんと一緒に仕事をしている。そんな些細なことで嫉妬されるようになった。
男からならまだ解る。でも、嫉視の大半は女子から来るのが理解に苦しむ。
『何であんな地味なのと』
『あいつ程度が美波さんと一緒にいて相手してもらえるなんておかしい』
『美波さんと同じ仕事で、ちょっと調子こいてんじゃないの?』
口にしなくても、目がはっきりそう言っている。目は口ほどに物を言うってやつだ。
「美波さんにはセレブなカレシさんがいんだかんな、変な夢見てんじゃねーぞ」
ラーメンを奢らされた翌朝、今まで口を利いた事もない。と言うか顔すらよく知らない同級生の女子に面と向かって言われて驚いた。いや、正しくは引いた。
「同じ空気吸ってんのが生意気なんだよ、調子くれてんじゃねーぞ」
明らかにラーメン屋に行ったことが周囲にばれていて、そのことで批難されてるんだろう。
「柚菜の存在って完全にシカトされてるよな」
例の友人、笹塚光と朝の一件を話しているうちに、美波さんファンの女子の視界にはまるで柚菜が入ってないことに気付いた。
「ま、影薄いしな」
光も同調する。
「でも、よく見りゃ綺麗な顔してるし、男子の人気は結構あるんだけどな」
「そうなのか?」
聞き返すと、光は胡散臭そうな顔をした。
「あるに決まってんだろ。素で聞き返してんじゃねーぞ。女に興味ねーにしてもよ」
「無くはないわ」
「知ってるのか? お前、一時期ゲイ疑惑が持ち上がってたんだぞ」
「……知ってるよ」
あまりにも男子とだけつるみ、女子との接点がないままに過ごしてきてしまったせいと、すっかりガテン系の体格に育ってしまったこともあって、マッチョナルシスト疑惑やゲイ疑惑が真しやかに囁かれていた。
ま、それもちょっと前までのことで、ひたすら地味に生きたいと願う俺の存在なんて、クラスの中でだってそう重いものじゃなかったから、噂話の寿命もごく短かった。そこは喜んでいいのか、凹むべきなのかは悩ましいところだ。
「目立たないにしても、注目してる男子は多いんだよ」
「ふーん」
そんなものか。確かにかわいいなあ、とは思うけどな。
「……でも、ああいうのの」
光は視線を俺から外さずに親指をある方向に向けた。その先には馬鹿笑いしながら下品に机の上に座り込んでいる女子の一群。
「視界にゃ入んないんだろうな。ありゃ自分らのはるか下に生息してる低級生物くらいにしか思ってねーよ。俺たち含めてな」
いくらなんでも自虐過ぎやしないか、と思ったけど、口にはしない。低級、高級はともかく、別の世界に生きている人間だってことには概ね賛成だった。