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実はあの後、柴田さんと肩を並べて教室に戻る前、梅澤先輩とも少しだけ言葉を交わしていた。
実行委員のそれぞれの担当が決まって、俺と柴田さんはクラス企画の管理担当になった。
その同じ担当に梅澤先輩もいた。
それは偶然ではなく、要は梅澤先輩が2年4組で、俺も4組。クラスごとに仕事を割り振った結果、そうなっただけのこと。クラス企画担当は1、2年の3組4組の実行委員が受け持つことになっていた。
梅澤先輩かもう一人の2年生がリーダーにならなきゃいけないけど、どっちも渋った。当然だな。
「私はやだから」
あからさまに不機嫌にそう宣言した梅澤先輩はむしろ気持ちいいほどに潔かった。もう一人の3組代表の先輩は明らかに梅澤先輩とはそりが合わなそうな感じ。俺以上の小心者という印象で正面切って梅澤先輩に何か言える雰囲気じゃなかった。
もちろん俺も柴田さんも梅澤先輩に何か言えるはずもない。
「適当にやってよ。手が必要なら手伝うくらいはするからさ」
そう言い切る梅澤先輩の言葉を黙って聞くしかなかったが、しょぼんとしている先輩も柴田さんも、このままの状態だとかわいそうな気がする。仕事始めの前からこんな有様じゃ、俺も気分が良くない。
なんとなく、仕事モードになってしまった俺はあまり深く考えずに口を開いた。
「リーダーがどうとかはともかく、手分けしてやりましょうよ。誰かが犠牲になって仕事抱え込むんじゃ、寝覚め悪いですし」
俺がそう言うと、梅澤先輩は少し意地悪そうな顔を浮かべた。
「よし。じゃ、あんたがリーダーやんなよ。寝覚め良くなるよ?」
うん。ちょいとばかしカチンときたね。俺は小心者だけど、人に苦労を押し付けて平然としていられるような下衆に笑顔をくれてやれるほどの間抜けでもない。
それに、あんたって呼ばれ方にもむっとした。
「こき使いますよ。わざわざ指名するくらいなんですから。従ってもらえるんですよね?」
冷静なって考えるとよく言えたもんだなと思う。けど、その時は一瞬で頭が熱くなっていた。
梅澤先輩は一瞬だけ驚いたような顔をした後、落ち着けよ、とでも言わんばかりに笑った。
「オッケー、従うよ。じゃリーダーはあんたって事で」
「構いませんよ。先輩もそれでいいですか?」
俺は萎縮しきっているもう一人の先輩に尋ねた。先輩は小さくなったまま頷く。柴田さんは無表情のまま、俺と梅澤先輩を見比べているようだった。
「とりあえず、仕事がどんなもんか全然わかってないんで、指示出せって言われても困ります。だから、今日は解散ということでいいですか?」
俺は一刻も早く梅澤先輩から離れたくなってたから、とっとと終わらせることにした。
「さんせー」
梅澤先輩は能天気な声を出して右手を上げた。
なんか上手く乗せられてしまったような気もするけど、やる気が無い人の相手はむかつくだけだし、柴田さんに話すことになる、高校生ごときに使われたくないって気持ちもあったから、リーダーになったこと自体はどうでも良かった。
「それじゃ解散しましょう。次のミーティングとかは、後で連絡しますんで」
「よろしくー」
梅澤先輩はどこまでものんきそうな顔をしていた。