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そのおかげか、喧嘩なんかしたこともないヘタレくんなのに、同級生の不良どころか、3年の怖い先輩方にまで親しくされるという、ちょっと恐ろしい状態になっていた。
高校生活での力関係って、中学生の頃より、外の力が影響するよな。
そんなことはわかっていたけど、おとなしく隅っこでささやかに生きていたい俺としては、かなりストレスのかかる状況になってた。目をつけられずにすむ利点はあるけど、それ以上にヤンキーたちの少しヤバ目な日常につき合わされるのはキツい。
いきなり始まった乱闘に付き合わされた時は本当に怖かった。向こうは俺が部外者だとか思ってないし、傍観していると、いきなり殴りかかってきたりする。
夏休み明けしばらくしてからだったと思うけど、そういう喧嘩に巻き込まれて、何発か殴られたこともあった。顔一発、腹とか腕に何発か。
翌日、熱が出たけど、オフクロに心配されるのも面倒だったし無理して学校に行った。
そしたら、周囲の見る目が明らかに変わってた。
『ただのおとなしいやつじゃない』
『キレるとヤバいらしい』
みたいな噂が立った。それを知ったのは怪我も治りかけた頃、小学生の頃からの友人の情報によってだった。
なんでも、その喧嘩で俺が相手した奴はわりと喧嘩の強さで知られていたらしい。
木嶋さんに喧嘩の仕方は教わってたから、それに従って、でも目の前が真っ暗ってくらいにぶっ飛んだ意識で死に物狂いで反撃してたみたいだけど、実はよく覚えてなかった。
それだけ怖かったけど、相手は俺の前に一人相手して、疲れてたところに俺の予想外の攻撃に呆れたのか、それとも木嶋さんの『親父さんには内緒な』という指導がよかったのか、一応俺が勝った事になってた。
生まれて初めての喧嘩は、周囲にヤンキー認定されるという嬉しくないオマケがついた。
それでも俺がヤンキー街道をひた走らずに済んだのは、まずヘタレだったこと。喧嘩なんか二度としたくないって思ったし、巻き込まれるのも勘弁だった。
それから、ヤンキーをカッコいいとか思ったことは無かったってのもある。
あからさまに不良って格好をしてる同級生を呼び捨てで呼ぶのって抵抗あるけど、俺は普通に呼べた。だって、それでいいよって雰囲気になるんだから仕方ないよな。
そのせいでグループの人間みたいに見られることもあったけど、決定的な違いがあった。
俺は本とか活字が好きで、どんなに長編な物語にも抵抗感がなかったことが密かな自慢だった。
人間、何か一つでも取り得があるとなかなか堕ちて行かない。落ちこぼれて逃げ込む先がヤンキーなんて姿に、ああはなりたくないと思っていた。
冷静になって思うと、かなり嫌な考えだけど、その考え方があったから俺はそこそこ勉強も頑張れたし、不良との付き合いも適度な距離感を保っていられた。