転生
俺、黒崎 健吾は謎の金髪女により『第二の人生』を与えられた。
しかし『転生先』は今までの俺とは全く違った世界。
関財閥と言う結構有名な大金持ちの一人娘の『関 有美子』。それが今の俺だ。
ならば元々のこの娘の『魂』とやらは何処かに行ってしまったのだろうか?
それとも、そもそもそんなものは実在せず、同じ様に見えても全く別の『世界』とやらに俺は飛ばされて来たのだろうか?
転生して3日が経っても全くその答えは見付からない。
俺の記憶の混乱を心配してか、父である関 周造はかなり豪勢な病院の一室を貸し切ってくれた。
取り合えず検査に異常は見られなかった為、『原因不明の一次的な記憶欠如』とかいう診断を下され、大事を取って入院。
そして、3日目の今日が晴れて退院となった。
「……お父様。心配掛けて御免なさい……。私はもう大丈夫よ?……記憶はまだ戻らないけど、少しずつまた覚えて行けば良いだけだから……」
目の前の父に向かい精一杯『良き娘』を演じる。
「そうか……。本当に心配したんだからな……。主治医からも特に脳に異常は無いとは言われているから、徐々に記憶も戻ってくるだろうからあまり心配し過ぎるなと念を押されてしまってな……」
父は安堵のため息を吐く。
記憶には無いが早くに母を無くし、父と5人のメイドと共にあの豪邸で生活をしているらしかった。父である周造はあの財閥の会長らしい。
以前、雑誌か何かで読んだが歳は40代中頃だったはずだ。その歳で会長とは恐れ入るものだ。
世の中にはこういう人間もいるのだなと、父の顔を見ながらも感心する。
「……じゃあ、父さんは仕事に戻らなくてはいけないから……。後の事は田村くんに任せてあるから、分らない事があれば彼女に聞くと良い」
田村 保乃。
俺が転生した日に会ったメイドの一人だ。年は今の俺とそんなに変わらないくらいか。
ほか4人のメイドも顔を合わせてはいるがまだ名前を覚えられてはいない。
「……うん。何かあったら保乃さんに聞くわ」
俺の頭を軽く撫で、病室を後にする父。
妻を早くに亡くし、娘を溺愛か。気持ちは分らなくも無いが、大学生の娘の頭を撫でるのは世間的にどうなのだろうか。
そんな事を考えながら、父の背中を見送った。