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 冬も深まり、寒さも日増しに厳しくなっていく今日この頃。クリスマスまで一月もないが街角の古本屋にはあまり、いや、全く関係がない。

 俺は足元に置いたストーブで爪先を暖めながら、のんびりと読書に耽っていた。扉の外はクリスマス一色だろうが、店の中はいつも通りの変わらぬ静けさ。ストーブが空気を暖める音まで聞こえそうな程だ。


 商店街の雰囲気作りの一環と言うことで、店の入り口にも誰かがリースをかけて行った。それ自体は構わないのだが、店の雰囲気にはそぐわない事この上ない。何しろ、そのすぐ隣のショーウィンドウに並んでいるのは、埃まみれになった明治期の様々な作家達の全集。それ以外の蔵書についても、クリスマスとは縁遠い物が殆どだ。クリスマスフェアなんて到底できない。それ以前にこの店にはあんまり客が来ない。

 だからこそ、こうして落ち着いて読書もしていられるわけなのだが。

 そんな油断しきっていた時、不意に店の扉が開いた。リースについている安物の鈴がチリリンと音を立て、同時に冷たい空気が流れ込んでくる。俺は読んでいた本を一応閉じて立ち上がった。

「いらっしゃいませ」

 勤めて落ち着いた声でそう一言。それから客の方に視線を送る。


 珍しいこともあるもので、入ってきたのは若い女の子だった。戸口を入ったところで、不安げに店の中を見回している。俺と目が合うと少し驚いたような顔を見せ、それから小さく会釈をしてくれた。合わせて何となくこちらも頭を軽く下げた。



■筆者メッセージ
もう一作もありますが、衝動的に書いてみたくなったので。しばらくお付き合い戴ければと……
希乃咲穏仙 ( 2021/04/09(金) 03:03 )