Epilogue 2
 祖母が亡くなり、久しぶりに家族全員と顔を合わせることとなった。

 両親と何度もぶつかり合いながらも、何とか柚菜との結婚を認めてもらえた。

 だけど、小さなわだかまりは完全に消えることはなく、今は実家から離れた町のアパートで柚菜と二人で暮らしていた。実家に顔を出すことはめったにない。





「じゃ、先に帰るから」


 葬儀の後片付けがまだ残っているという父に声をかけた。


「あぁ」


 背中を向けたまま父が答えた。そんな父を残して祖母の家をあとにする。

 誰も住む者がいなくなったこの家は、近々取り壊されることになっていた。

 父が産まれ育った家。父と遊びに来て、祖母とひと夏を暮らした家。

 祖母は会えたのだろうか。先に逝ってしまった、愛する祖父にもう一度。


「誠」


 庭先から最後に祖母の家を眺めた時、父の声が聞こえた。


「柚菜さんの具合はどうだ?」


 父の口から柚菜の名前が出ることはめったになく、少し戸惑った。


「……つわりが、ひどいみたいだ」

「今が大切な時だからな。大事にしてやりなさい」


 それだけ言うと、父は背を向けた。


 子供の頃、広くて大きく見えた父の背中は、いつの間にか細く小さくなっていた。


「父さんも……体、大事にな」


 一瞬だけ動きを止め、しかし何も言わずに父は家の中に戻っていった。


 一年前、体調を崩した父は開業していた院を兄に任せ、家にこもりがちになった。最近も病院通いが続いているという。






 駅のホームに立つ。もうこの町に、足を運ぶこともなくなるだろう。

 上り列車を待ちながら、ぼんやりと考えた。


 自分は変わっているつもりはなくても、周りは少しずつ変わっている。後悔しない生き方を果たしてしているだろうか、と。





――誠くん、今、どこ?――


 最寄りの駅に着いたところで、柚菜からLINEが届いた。もうすぐ着くよ、と打ちかけ、直接電話をかけた。


「今、駅。具合どう?」

「大丈夫。誠くんは?」


 あの夏、柚菜と一緒に野菜の収穫をしていた祖母の姿を思い出し、胸の奥が熱くなる。


「オレも大丈夫。もうすぐ帰るよ」

「うん。待ってる」


 夕暮れの商店街を歩きながら電話を切る。

 どこからか漂ってくる揚げ物の匂い。遠くで車のクラクションが響き、店先からは派手な音楽が流れてくる。

 行き交う人々が急ぎ足なのは帰る場所があるからだろう。



「お母さぁん」


 ビニール袋をぶら下げた、一年生くらいの女の子とすれ違う。肩先で揺れる黒髪を見て、なぜだか惹きつけられるように振り向いた。


「お肉、一人で買ってきたよ!」

「よくできました。これでカレーが作れるね」


 商店街の片隅、女の子が自慢げに笑っている。そんな女の子の頭をそっとなでる母親の姿に思わず声を上げた。


「沙耶香?」


 ゆっくりと振り向いた母親は間違いなく、七年前に別れたあの沙耶香だった。




■筆者メッセージ
毎年行ってたフェスが開催されると言う朗報を見てしまった。すごい行きたいけど、色々考えると行かないという選択をすべきなんでしょうが…… 知らないままの方が幸せでしたね




信次は自分が出て行きたかった。でも出て行く決心がつかなかったし、逃げるみたいで嫌だった。ところが、誠と出会ったことや、沙耶香の状況を知ることで、『沙耶香を連れ出す』という大義名分を得てしまった。あとは一人相撲状態で突っ走ったという訳ですね。彼も兄と同じで少し自分勝手な性格だったということです。

と、そんな裏設定でした……


では、またお願いします。
鶉親方 ( 2020/08/09(日) 23:14 )