十九話
 春の暖かな日差しが差し込む中、好花は私たちが生まれ育った街の小さな教会で結婚式を挙げた。


 集まった家族も友人もみんな、少しお腹が目立ち始めた花嫁と花婿を喜んで祝福した。そしてその日の好花は、私の記憶の中で一番幸福そうな顔で笑っていた。




 結婚式の帰り、実家へ戻る両親と別れ、私は一人あのバーに向かった。

 しかし、店のあった場所には別の店が入っていた。



「潰れちゃったのか・・・マスターに会いたかったのにな」



 私がエレベーターから降りると、後ろから懐かしい女の声が聞こえてきた。



「・・・久美?」



 私がゆっくりと振り返る。夕暮れの街を背に、赤ん坊を抱いた史帆がじっと私のことを見ていた。



「史帆じゃない! 久しぶり」



 私はそう言って笑うと、史帆に抱かれる赤ん坊の顔を覗き込んだ。史帆はどうしたらいいのかわからない様な顔で子供を抱きしめ目を逸らした。

 私はそんな史帆を見て、何も聞かなくてもすべてを悟った。



「結婚したんだ?」



 史帆は左手を隠す様に体をずらし小さく頷いた。



「子どもも産まれたんだ?」



 私の言葉に史帆は手で顔を覆った。



「やだ、どうしたの? 私だったら全然平気だよ? 結婚したなら教えてくれればよかったのに」

「ごめんね・・・久美」



 史帆の声は震えていた。史帆は心から私にすまないと思っているのだろう。中学時代から彼女を知っている私にはわかる。



「だーかーらー、謝ったりしないでよ。女の子? 何ヶ月? 名前なんていうの?」



 私はそう言って赤ん坊の手にそっと触れた。小さくてか弱いその手が、私の指をギュッと握る。



「日向っていうの・・・今3ヶ月」

「日向ちゃんかぁ、かわいい名前ね。ほら、この大きな目、史帆にそっくりだよ」



 私の言葉に史帆が少しだけ微笑んだ。私は黙って、史帆の腕に抱かれる日向を見る。




確かに目は史帆にそっくり

けど全体的には彰似かな

彰はきっとめちゃくちゃかわいがっているんだろう

昔からあいつ子供が好きだったし





 そんなことを思っていたら、私の目から忘れかけていた涙が流れそうになり、慌てて史帆に笑いかけた。



「これからどうするの? お茶でもどう?」

「ごめんね。実は私もこの子もちょっと風邪気味で、病院の帰りなの」

「そっか。じゃあ早く帰って休まないとね」



 私はそう言うと、もういちど日向の手を握ってから手を振った。



「それじゃ、お大事にね」



 私の声に史帆が顔を上げた。



「久美・・・」



 史帆はそれ以上何も言わなかった。ただ切ない目で私をじっと見つめていた。私はそんな史帆に笑いかけると、ゆっくりと振り返り歩き出した。



鶉親方 ( 2020/02/29(土) 22:09 )