三話
「彰くん・・・元気?」


 暖かな店内でミルクティーをかき混ぜながら、史帆が少し言いにくそうに言った。私はクリスマスイルミネーションが光る街並みから目を史帆に移し笑いかけた。



「元気だよぉー。とても死にかけた人間とは思えない」


 少し戯けた様な言葉に史帆は笑わなかった。その変わりに大きくて睫毛の長い瞳をかすかに潤ませ言った。


「まだ、わからないの? 久美のこと」


 私は小さく笑って答える。


「そうね。まだ思い出せないみたい」


 そう言うと史帆は泣き出しそうな表情を見せた。私は慌てて大袈裟なほどの笑顔を作る。


「でもね、そういうのってふとしたはずみで思い出すみたい。先生もゆっくり焦らず待ちましょうって言ってるし。それに記憶喪失の彼氏と付き合うなんて経験、滅多に出来るもんじゃないし」


 私はそう言ってコーヒーを飲む。史帆はまだ不安そうな顔で私を見ている。



 中学時代からの親友である史帆は、いつだって私のことをまるで自分のことのように心配してくれる。


 だから婚約者である彰が事故に遭い、生死の境を彷徨っていると聞いた時も、思わず気を失ったほど。目の前で事故を見た私でさえ、倒れるということはなかったのに。いや、倒れている場合ではなかったからかも知れない。



 その時、テーブルの脇のガラス窓をこつこつと叩く音がした。


「あ、彰くん」


 史帆の声にコーヒーを置いて振り向いた。歩道の並木に彩られたイルミネーションの光を受けながら、彰が笑顔で立っていた。



鶉親方 ( 2020/01/16(木) 15:03 )