一話
 その日の私は幸せの絶頂だった。

 片手に小さな花束を抱え、もう片方の手にはちょっぴり奮発して買った赤ワインをぶらさげ、商店街をニヤニヤと歩く。そんな私は他人から見れば、少しおかしいほどだった。


 夕暮れの空はオレンジに染まり、買い物客で賑わう店先からは焼き鳥の美味しそうな匂いが漂ってくる。焼き鳥にビールでもよかったかなと、今夜の夕食のメニューをちょっぴり後悔しながら、私は少し足を速めた。




 彰はもう帰っている頃だ。今日は出張先から直帰して、先に夕食の支度をしてあげると言っていた。



「何が食べたい?」



 彰からの質問に私はビーフシチューと答えた。

 彰の作るビーフシチューはかなり美味しい。早くに母親を亡くし、その後ずっと自分で食事の支度をしてきたという彰にはたくさんのレパートリーがあったが、その中でもビーフシチューは格別だった。



「じゃ、帰りにワインでも買ってきてよ。ビーフシチューに赤ワインでパーティでもしようか」


 パーティという言葉にワクワクしながら、私は彰に聞いた。


「何のパーティ?」


 彰は少し考えてから答える。


「うーん俺がマスオさんになる前の独身サヨナラパーティ」

「なにそれ」


 笑いながら、私は座っている彰の背中にもたれかかった。


「彰。マスオさんになるの、イヤじゃない?」


 彰は後ろを振り向き、私に笑いかける。


「イヤじゃないって。久美の家族と一緒にメシ食うの、すごく楽しいよ。家族の団欒って憧れだったからさ、俺」


 私は子供のような笑顔でそう言う彰をとてもいとおしく感じ、肩越しにそっとキスをした。


 見慣れた彰の部屋の窓から夏の始まりの匂いが漂ってくる。私のキスに答えるように彰は私を抱きしめる。私たちはその唇でお互いの愛を確かめ合いながら、もつれるようにその場に倒れた。



「同居したらこういうのもおあずけ?」


 私の顔を見下ろしながら彰が言った。


「そんなことないよ。いっぱいキスしていっぱい抱き合おう」

「エッチ」



 彰は笑っていつものように私の首筋にキスを落とした。それはこれから二人が体を寄せ合う、始まりの合図のようなものだった。





■筆者メッセージ
もう一作も途中ですけど、新しく始めたしまいました。

ま、箸休め的な感じでしょうか。


以前に拍手の方に提案のあった日向坂さんです。正味な話、去年の11月にこっち帰って来たもんで詳しくないんですがね

ちょいとお付き合い下さいませ
鶉親方 ( 2020/01/13(月) 23:28 )