40話 絶望
「悪い。ちょっとオレ、出てくる」

「また、あのセンセイか?」

「いや、別件」

「・・・ふうん?」



 公志の怪訝な顔から逃げるように健人はコンビニを出た。

 ビルを見上げる儚げな瞳を見てなぜか頬が引き締まる。





何も起きなきゃいいが・・・






「ん? 美波ちゃん。どうしたの」

「ちょっと、聞きたいことがあるの」

「込み入った話みたいだね。場所、移す?」

「ここでいい」



 美波は視線を公志に移す。



「健人、どう?」

「今は落ち着いてると思うよ」

「公志くん。健人、眠れてないよ」

「うん。わかる」

「そっか」





無理に笑おうとしている姿が痛い

彼女もギリギリのところにいることがわかるから・・・かな








「私、何ができる?」



 公志は黙って首を振った。



「私は・・・どうしたらいい?」



 美波の濡れた瞳が公志を突き刺す。



「傍に・・・居てあげて」



 公志の答えに美波は笑みを漏らした。


 瞬間的に公志は絶望する。








彼女はこれ以上耐えられない


姿を消すだろうな


そして、健人はそれに耐えられない




 俯いた公志に美波は明るい声を出した。顔を上げるといつもの美波の笑顔があった。



「ごめんね。ありがと。吹っ切れたよ、私」

「そう・・・美波ちゃん」

「お店、一緒に入ったら怪しまれちゃうよね? 私、先に行ってもいい?」

「あ・・・うん」

「じゃ、公志くんは適当に時間潰してきてね」



 美波は微笑んでビルの中に入っていった。公志はそれを黙って見送る。

 エレベーターに乗る直前、美波は振り返り公志を見た。


 にこりと微笑み、小さく手を振って公志の視界から消える。




 公志は天を仰いだ。



大事な友人の健人

その健人の大事な彼女の美波

俺にとっても大事な存在



 公志はため息を一つ吐き、エレベーターに乗り込んだ。





鶉親方 ( 2018/12/04(火) 23:15 )