18話 好奇心
「美波ー、最近いいことあった?」



 突然、ロッカールームで美月に声をかけられ、美波は首を傾げた。



「何で?」

「なんか・・・すごい可愛くなった」

「はぁ?」



 美月の言葉に思わず目を丸くする。



「酔ってんの?」

「違うって。最近、随分笑うようになったよね」

「そう?」



 それは美波も薄っすら気付いていた。

 最近、Rigelに行くたびに笑ったり怒ったりと忙しい。そのせいか、店でもわざわざ作り笑いをしなくても自然と微笑むことができるようになっていた。

 美波は健人の顔を思い出し、思わず笑った。



「もしかして、彼氏でも出来たかー?」

「まさか。そんなんじゃないよ」

「そうかなぁ? あ、もしかして前に来たバーのオーナーさん?」

「え?」

「図星だね。なんかあのお客さんと美波って似てるよね」

「どこが!?」

「どこって・・・そうだなぁ。諦めちゃってるところとか?」

「何それ」

「美波ってさ、何か、色んなこと諦めちゃってるよね。特に男に対しては顕著だよ」



 うまく隠していたつもりだったのにバレていたのかと思わず俯く美波に美月は笑う。



「でも今はいい顔してるよ。きっとそのカレのおかげだね」



そうなのだろうか

男なんてみんな同じ

あいつだってきっとそう

なのに、いつからこんなに心を許してしまっていたのだろう






 美波は小さくため息を吐いた。



「ね、美波。私、今日飲みに行きたい気分なんだけど」



 にやりと笑う美月に美波は眉を寄せる。



「美波のダーリンのお店、連れて行ってくれるよね?」










「いらっしゃい、美波ちゃん」



 いつものように公志の笑顔に迎えられ、美波は苦笑いしながら体を少しずらした。

 美波の後ろにいた美月に気付き、公志は少し驚いた顔をする。



「こんばんは」

「えっと、お店の子。飲みたい気分だって言うから」

「そうなんだ? ご来店ありがとうございます。バーテンの牧村です」

「はじめまして。美月です」



 美月は柔らかく微笑み美波を見る。



「飲むんでしょ? 座ろうよ」



 美波はいつの間にか自分の特等席となってしまったカウンターに美月を連れて行く。

 スツールに腰を下ろすと公志に飲み物を聞かれ、少し迷ってタンゴをオーダーした。



「美月は?」

「私も同じので」



 公志は微笑んでから手早くカクテルを作り二人の前に差し出した。



 一口飲んで美月は微笑む。



「美味しいっ」

「ありがとうございます」

「公志くんも飲んでいいよ」

「うん、ありがとう。健人、今営業行ってるんだよね。もうすぐ戻ってくるから」

「別にいいよ。健人に会いにきたわけじゃないし」



 美波は苦笑いして美月を見る。

 にやりと笑い返されため息をこぼした。

 そんなんじゃないのに、と思いながらも、思いっきり否定できないのはなぜだろう。



 30分程して健人が店に戻ってきた。



「あれ? 美波の友達?」

「うん。お店の子」

「そうなんだ。はじめまして。オーナーの仙道です」



 健人は美月に笑顔を向け、美波を見て微笑む。カウンターの中に入る途中で美波の頭をぽんと触れる。

 いつものことだが、隣に美月がいると思っただけで美波はなんだか急に恥ずかしくなった。



「いい感じじゃーん」



 美月はつんと美波のスーツを引っ張り、にやりと笑う。



違うのに

違うと言えない自分に戸惑う



 結局、曖昧に笑ってグラスを煽るしかなかった。



「そう言や、美波、この間どっかのメンパブに行った?」

「え? あぁ・・・お店の子に誘われてね。何で知ってるの?」

「そこの店の店長が客と飲みにきたんだ。"OZ"のNo.1とNo.2が来たって言ってたからさ」

「そうなんだ? なんかノリについていけなくてすぐ帰ってきたけどね」



 美波は美月の方を向いてちょっと笑う。



「じゃあ、No.2って美月ちゃんなんだ?」

「今のところはですけどね。美波にはなかなか追いつけなくって」



 美月は苦笑いしながらグラスに口をつける。



「次は何にしましょうか?」

「んー、実は私あんまりカクテルのこと知らないんですよね。美波は次何にするの?」

「どうしようかな・・・お任せでいいや」

「そ? 美月ちゃんもお任せでいい?」



 健人は微笑んでからシェイカーを取り出した。



■筆者メッセージ
[用語解説]

※タンゴ
ベルモットとオレンジキュラソーの豊かな香りと甘味が贅沢で口当たりもよく、女性にも人気。名前の通り、情熱的なイメージがあります。度数25度以上という高い度数からもきているのかも知れないですね。




何名か質問があった通り、人物名はとある漫画から来てます。仙道だったり、牧村だったり、北澤だったり、その他もろもろ・・・
筆者の好きな漫画です。最近また話題になったりしてましたので拝借しました。名作ですね。

鶉親方 ( 2018/09/26(水) 21:24 )