12話 懸念
納品したばかりのリキュールを棚に運び在庫を確認していた公志は、頬杖をついてぼんやりと窓の外を眺めている健人を見て心のざわつきを感じた。
あの夜、美波と二人きりにしてから、もう3ヶ月ほど経つ。しかし、あれから一度も美波は店に顔を出さない。
健人の様子がおかしいのも公志はこっそり不安に思っていた。
「健人?」
声をかけても反応がない。公志は慌てて健人の肩を掴んだ。
「健人!」
「ん?」
「・・・大丈夫か?」
「あぁ・・・悪い。ちょっと考え事してた」
「ちゃんと寝てるか?」
「ボチボチね。あー・・・開店準備、終わった?」
「とっくに」
「よし、んじゃ開けようか」
公志は立ち上がった健人の肩を掴み、再び座らせた。
「何だよ? 大丈夫だって」
「大丈夫じゃないヤツに限って大丈夫って口にするんだよ。・・・美波ちゃんと何かあったのか?」
「んー? 別に」
「それなら、何で美波ちゃんを迎えに行かない?」
「美波もさ、人を信じないんだって。可哀想にな・・・。あいつには支えになるヤツも、風除けになってくれるヤツもいない」
「なら、お前が支えてやればいい。俺らが風を除けてやればいいんじゃないか?」
「そうしてやりたいんだけどな・・・あいつはそれを望んじゃいない」
「いきなり現れて、信じろなんて言われて信じられる人間がいるかよ。お前だってそうだったろ?」
「美波さ、何を抱えてるんだろうな・・・助けてやりてぇのに、距離は近付いても心がすげぇ遠くにあるような気がする」
健人は小さく息を吐き窓の外に視線を移す。
「今日は・・・休め。そんな顔で店に立てるなんて思ってないだろうな?」
「・・・うざいよ、公志」
ピシッと空気が凍て付く。それでも、公志は拳を握り怯まずに続けた。
「そのままじゃ、仕事にならない。美波ちゃんを連れてくるまで戻ってくるな」
「ホント、うざいね」
そう言って健人は立ち上がった。そのままドアに向かって歩いていく健人に苦笑いし、公志が声をかける。
「タケ。玉砕しても俺らがいるから安心してぶつかってこいよ?」
「うざいって。マジでムカツク」
小さく笑って出て行った健人を見送り、公志はそのままソファーに体を預けた。
随分穏やかになったもんだ、と薄く笑う。昔の健人なら今頃この店は滅茶苦茶になっていただろう。
必死になる健人を見るのは店をオープンさせた時以来だった。
少しは役に立ったのだろうか
傍にいてやることで健人は救われたのだろうか。
そう考えて緩く頭を振る。
健人が抱えているものの大きさは公志の想像の域を超えている。
今は大事な親友が壊れないことを、ただただ祈った。