Precious Heart - 一
2話 つまらない世界
「お疲れ様」



 閉店後の店内に“OZ”のママである郷美が疲れた表情で現れた。

 中央のテーブル席にホステス達を座らせ、自分も腰を下ろした。



「マネージャー。今日の順位を」

「はい。指名1位 美波、2位 七瀬、3位 飛鳥です」

「そう。美波は今日は何本?」



 郷美に聞かれた美波は数秒考え口を開いた。



「15本・・・です」

「平日にしてはまあまあね。それで、明日の見込みは?」

「明日は金曜日ですので、樋村建設の方がいらっしゃると思います」

「そうね。アポは?」

「いえ、極力お客様にご連絡差し上げないようにしていますので」

「そうだったわね。明日もよろしく」

「・・・はい」



 郷美はシガレットケースからタバコを取り出し火を着ける。

 ふーっと煙を吐き出し、ちらりとマネージャーを見やる。



「下位は?」

「はい。麻衣、綾乃、愛未の順です」

「先週もじゃなかったかしら?」



 郷美の言葉に3人は表情を強ばらした。



「麻衣ー、あんたやる気ある?」

「あります。けど・・・」

「言い訳は結構。客がつかない理由はわかってるんでしょうね?」

「・・・・・・」



 黙り込んだ麻衣に深々とため息を落とし、郷美は立ち上り柏手を打った。



「解散。お疲れ様」



 不機嫌な面持ちで奥の事務所に下がっていく郷美を見送り、ホステス達は首を竦めた。



「今日のママ、なんか機嫌悪くないですか?」

「うん。満卓だったから売り上げは良かったはずなのにねぇ?」

「不機嫌の原因はやっぱ、アレじゃない?」



 ホステス達はある人物に不躾な視線を向けた。

 彼女はそんな視線を一睨みしてロッカールームに去っていった。



「麻衣さん、指名率ガタ落ちじゃないですか?」

「だってほら、・・・アレだもんね」



 くすくすと嫌な笑いを浮かべちらりと美波を見る。



「何か?」

「別に。ね、美波って麻衣さんと仲良かったよねぇ?」

「それが何か?」

「やっぱり元No.1と現No.1って、気まずいものなんですか?」

「別に。くだらないこと言ってないで早く着替えればどうですか?」



 美波はにこりともせずに冷淡な視線を彼女達に向けた。

 ひきつった笑みを浮かべる彼女らに背を向け、そのままロッカールームに下がった。






くだらない・・・何がNo.1よ・・・






 苛つきながら自分のロッカーを開け、軽く化粧を直してコートを羽織り、ちらりとドレッサー前に座っている麻衣に視線を向けた。



「お疲れ様でした」

「お疲れ」



 麻衣は一度も美波を見なかった。

 美波は小さくため息を吐いてロッカールームを出る。店内でまだくだらない話に花を咲かせているホステス達に目もくれず、足早に店を出た。





つまらない

No.1なんて称号は要らない

この世界は本当につまらない






 美波は大きく息を吐き出した。



■筆者メッセージ
初めましての方は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。鶉です。
約半年間、放置してしまいました。楽しみにしていただいた方々には本当に申し訳なく思います。


少し、弁解と言うか、言い訳させて下さい。

何があったかというとですね、単純に多忙故にログイン出来ずにいるとIDもパスワードも忘れてしまいまして、参ったなー、なんて思ってるうちに色々なことが重なり時間だけが過ぎていったという訳です。ホント反省してます。

もちろん、書き途中の作品はこっちで完成させます。今作と平行という形で進めていきたいと思っています。

今度は覚え易いIDとパスワードです。もう忘れません。
また、よろしくお願いいたします。
鶉親方 ( 2018/08/09(木) 23:41 )