其の一/李奈
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子供が多い上に盛り上がる部分が多い映画なら子供のはしゃぐ声は仕方なしと思っていたが、その心配は皆無だった。終始静かな場内で祐樹も映画に集中することが出来た。このアニメをしっかり見るのは祐樹が子供の時以来で改めて大人も楽しめる程親しみやすい内容で面白いと感じていた。
 隣で李奈がポップコーンをつまみながら『おおっ』や『いけっいけっ』など小さな声で歓声を上げている。彼女じゃない別の女性とのデートは新鮮でいつも楽しい。玲奈の時も自分を見てくれることにときめいている自分が居た。 
 今の流れ的に李奈の身体をどうこうするようなことにはならなそうだが。杏奈が自分に頼んで来たのはそういう意味合いもあるのだろう。李奈のこともちゃんと女性として見ている。

 2時間の上映時間の内後半は李奈のことを考えていた。去年のような教師としてのプライドは一切なく、関係を持つことに抵抗が無くなっていた。それだけ彼女達のことが好きだったし求めてくれることが嬉しかった。決してセックスさえできれば都合よく性欲が満たされればなどは思っていない。彼女達が居なきゃ特に朱里が居なきゃ自分もダメになってしまう。教師と生徒の関係以上に自分達は濃密な関係で絡まっていた。


「彼氏が居るってこんな感じなのか?」

 映画が終わり、時間が余ったのでそこら辺を散歩することになった。一応行き先にはショッピングモールと決めている。相変わらず手を握り、ブラブラと揺らす李奈。

「どうなんでしょ? 僕は李奈さんを彼女みたいに思ってますよ」

「えー斉藤にはヨガも居るしウオノメも居るじゃんか。浮気はいけないんだぞ」

「お互いが良かったら別に良いんですよ。大体、杏奈に頼まれたわけだし」

「ふーん恋愛ってのはそういうもんなのか?」

 李奈は首を傾げた

「実際はダメですよ? 普通だったらこうやって彼女じゃない女の子と手を繋ぐなんて絶対ダメです。あと二股もね」

「そっか。じゃあ斉藤は優しいんだな。ウチの相手もしてくれて。好きだぞ」

「お、嬉しいですね。3人目の彼女になります?」

 さらっと祐樹は言ったが、李奈を恋人にするのも良いなと思っていた。玲奈は相変わらず彼女にはならずセフレのまま。セフレだったら別れなくて済むし、先生に責任取って貰えるからと彼女になることを拒否している。杏奈と同じで捨てられるのが怖いのだろう。自分としては彼女になってくれても一生大事にするのに。

「えー、でもさデートはもう今してるし、斉藤はウチのこと好きだし、ウチは前から斉藤のこと好きだし。てなると友達と彼氏の違いが分からないな」

 李奈は道端に落ちている小石を蹴った。李奈の言う『好き』とは漠然としたものなのだろう。恋愛をしたことがないのなら尚更分かりにくいのかもしれない。

「別れたらどうなるの?」

「別れるというのはお互いを好きじゃなくなるってことですからね。離れ離れになるかな」

「じゃあ嫌だ! 友達が良い! 斉藤のことずっと好きで居たいもん」

 李奈は何かに怯えるように祐樹の腕にしがみついた。せっかく抱いた感情を失ってしまう怖さで身体が震える。

「そこまで思ってくれてるんですね。だったらこれからずっと友達ですね」

「うん。たまに恋人ごっこしようよ」

 『恋人ごっこ』という言い回しが如何にも李奈らしかった。また1人自分に心を許してくれる相手が出来て、祐樹は心が暖かかった。李奈の頭を優しく撫でる

「なぁ、斉藤」

「なんですか?」

小さい顔が突然険しくなり目がカッと開いた。



「......物凄くおしっこしたい!!!!!」






■筆者メッセージ
この流れは......そういう流れですね

ハリー ( 2018/07/13(金) 22:40 )