第七章/朱里
11
 
 重苦しい空気に朱里は唇を噛んだ。心臓がはち切れそうなくらい胸が苦しくなり朱里は胸を押さえた。ついに禁断の言葉を口にしてしまった。

 祐樹のことがずっと好きだった。一番最初はおそらくただの淡い恋心だった。『自分たちに寄り添ってくれる良い人』それ以上でもそれ以下でもなかった。その気持ちが膨れ上がったのはある光景を見てしまったからなのかもしれない。
 祐樹と仲良くなってから夏を迎えた頃だろうか、学校帰り奈月と玲奈の3人で帰っていた朱里は忘れ物をしたこと思い出した。2人を帰らせ1人学校に戻り、教室で忘れ物を見つけた。そして再び下校しようとした時だ。どこからか声が聞こえた。いつもであれば気にしなかったのだろう。だがこの声に聞き覚えがあった。美音の明るい声。このフロアには人が居ないはず。1人であいつは何をしているんだ?そんな疑問から朱里は声の聞こえる方へ足を進めた。辿り着いたのは理科室だった。ヤンキーばかりの高校で科学実験など危険極まりないので、ほとんど使われることはなかった。

 ここからか。朱里は理科室に近づきそっと耳を当てる。すると美音の楽しそうな声が聞こえた。どうやら美音の他にもう一人居て会話をしているようだ。誰だろう?更に気になってしまった朱里は理科室の扉に手をかけた。もしかしたらバレるかもしれない。そのゾクゾクとしたスリルが全身を襲った。立て付けが悪いと予想していた扉は音を立てずにスムーズに動いてくれた。そして中が見えるくらいに開け、朱里は覗いた。
 椅子に座って見上げている美音を確認した。何か駄々をこねているようだ。そして駄々をこねられ困ったような表情を浮かべていたのが祐樹だった。一瞬朱里の心臓がドクンと跳ね上がる。美音は涼花と先に帰ったはずだった。
 
「ほら美音さん、もう僕は仕事がありますんで」

「えー、まだギューってしてないよせんせー」

 美音は頬を膨らませると、祐樹にべったりくっついた。朱里はまたばきもせず二人の行動を焼き付けるように見る。あんな人に甘えている美音を見るのは初めてだ。心臓がググッと締め付けられるような感触に襲われ呼吸が苦しくなった。

「......しょうがないですね。ちょっとだけですよ?」

「わーい!」

 ぴょんと立ち上がった美音は座っている祐樹の上に収まり赤ん坊のように頭を撫でられた。
そういう関係だったんだ。目の前の光景にあっけに取られた朱里、力が抜けてしまいカバンが音を立てて床に落ちた。

「ん? なんだろ」

 美音がこちらを振り向いた。祐樹が美音を下ろし、確認するためか近付いてきた。
やっやばっ......!焦りに焦った朱里はカバンを拾い上げると、近くのトイレに飛び込むように隠れた。ガラガラと扉を開く音が聞こえる。祐樹が廊下を確認しているのだろう。こっちまで来られたら見つかってしまう。
 だが、祐樹は廊下まで出なかったようだ。再び扉が閉まる音が聞こえる。朱里は安心するとその場に座り込んだ。さっきの美音を思い浮かべると、また胸が痛んだ。祐樹を取られたことに嫉妬しているのだ。変だ。自分が先公を好きになるだなんて......。


 朱里の恋は始まった。目撃してしまったことは誰にも言えなかった。言えるわけがなかった。恋心を隠し何事もなかったようにするのはとても辛かったが、祐樹の優しさはそれを癒してくれた。ただ、他の生徒と話している姿を見てしまうと嫉妬心が生まれるようになってしまった。
 そのうち、美音と祐樹は恋人関係でないことが分かる。きっかけは祐樹の異動だ。美音の必死な態度から、直感で気づいたのだ。自分と同じ恋心を抱いているだけだと。だったら自分が目撃した出来事に疑問を持たざるを得なかったが、余計なことを考えるのを止めた。祐樹の後をつけることを提案したのも実は気になっていたからだ。
 
 
 

■筆者メッセージ
沢山の拍手メッセージありがとうございます。
回想録シーンで久しぶりにみーおんちゃんとの絡みです。

たこ焼きさん
お褒めの言葉ありがとうございます。
大体どの章もこんな感じなのですが、やっぱり「思いのままに」のようなシチュエーションが皆さん好きみたいですね
オレンジさん
もしウオノメちゃんの想いが強ければ祐樹には必ず受け入れます。彼は人を傷付けることが出来ませんからね。
このサイトは制限とか無いですからどうにもなりません(・Д・)
根気で消すしかないですね
来年早々握手会に参加するので体調にはホントに気をつけなければっ
ハリー ( 2016/12/22(木) 23:16 )