10
グッと自分が空中に浮かぶような感覚はとても不思議に思えた。どんどん周りの物は小さくなり、遊園地の全体が見下ろせるようになった。ジェットコースターも高い所から景色を見下ろせるがそんな暇は無い。ゆっくり景色を眺める機会が有って良かったと朱里に感謝した。その朱里は隣でじっと外を見ている
一通り遊んだ後『観覧車に乗りたい』と提案したのは朱里だった。ワイワイ楽しんだ後の余韻を楽しむには観覧車が一番なのだろう。祐樹は快く了承した。
「実は観覧車初めてなんですよね」
「そうなんだ」
「やっぱり子供の頃ははしゃげる方がいいですからね」
「そうだね」
朱里は言葉少なく、変わらず窓から外を眺めている。きっと朱里は景色を眺めるのが好きなのだろう。邪魔をしてはいけない。祐樹も朱里に習い、窓から景色を眺めた。空が夕日によってオレンジ色に焼けている。朝早く出ていつの間にかこんな時間に。朱里と居るのがとても楽しかった。それに伴い、朱里が転校してしまう事実を思い出してしまった。新学期が始まった時には朱里だけが居ない。それが全く想像がつかなかった。
「......先生」
「ん? なんですか」
朱里は祐樹の方は見ずに相変わらず外を眺めていた。
「先生っ、てさ。ジセダイと付き合ってるの?」
「......美音さん、ですか?」
急にニアピンな質問に朱里から目を逸らす。付き合ってはないが一線を超えた関係だ。仲間が教師に身体を預けたなんてことはあまり知りたくないことだろう。
「付き合ってないですよ。急にどうしたんですか?」
「だって、ジセダイと先生って仲良いじゃん。火鍋の中で一番先に先生と仲良かったのもジセダイだし」
「まぁ、美音さんとゲームセンターに行ったことはありますけど、仲の良さは朱里さん達とあまり変わりませんよ」
余計なことは言わないように言葉を選んだ。そういえば思い返してみると最近美音の過度なスキンシップが無くなったように思えた。自分が矢場久根に異動した辺りからだろうか。前は2人きりになるとべったりくっついていたが、寒くなってからはそれが無くなっている。彼女なりに成長したということか。
「じゃあさ、好きな人は居るの?」
朱里の質問は続く。この質問に祐樹は杏奈を思い浮かべた。
「居ます、よ」
「......そうなんだ。どのくらい好きなの」
何か朱里は現実を見ることを恐れているような質問の仕方のような気がした。『彼女居るの?』本当はこれが聞きたいのではないのだろうか。
「ん〜......大切な人です」
ここは正直に答えよう。正直に答えなければ、杏奈にも失礼だ。
「......朱里より大切な人なの?」
「えっ......」
ある程度は予想していたことだ。朱里の雰囲気や質問の流れから分かる。だが、いざ言われると心臓の鼓動が早くなった。変わらず景色を眺めている朱里の後頭部を見る。
「......朱里よりさ、その人の方が好きなの?」
ゆっくり朱里が振り向く。だが祐樹を直視出来ず、目線が床と行き来した。
「あ、あの朱里さん、もしかして」
「うん。先生のこと......好きなんだ」