06
厳しい寒さは変わらないものの、冬特有の澄んだ空気は鮨詰め状態の車内から解放された心をスッキリさせた。隣でうーんと背伸びをする朱里。車内ではずっとお互い何も言わず密着したままだった。
異性として見られてないのだろう。兄貴や父親とでも思われているのか。それはそれで嬉しかった。
「ぷはーっ、やっぱり冬はいいな」
「朱里さんは冬派ですか?」
「うん。汗はかかないし、火鍋は美味しいしな」
もしや鍋物と彼女たちは似ているのかもしれない。夏場はダラダラと授業を受け、元気を無くしているが冬になるとワイワイ騒いでいる。そんな自分達を表しているのが『火鍋』だったのかもしれない。
「さすがチーム火鍋ですね。ところでどうして冬に遊園地なんですか?」
二人の目の前には大きな施設が広がっていた。この地域であれば一番大きなレジャー施設でもある。
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終業式の日、祐樹は朱里に呼び出された。
「あのさ、先生と思い出作りたいんだ」
そう告げられた祐樹はチーム火鍋と共にワイワイする映像が浮かんだ。そういうことならと思ったが、大勢ではなく祐樹と二人きりであることを朱里は追加した。
「あいつらとの思い出はさ、捨てる程作ったけど、先生との思い出って意外と無いなって思ってさ。いいだろ?」
祐樹は頭を掻いた。嬉しいやら苦しいやら。いつの間に自分は誘われる人間になったのだろう。また杏奈が嫉妬しそうだが、転校してしまうクラスの可愛い生徒が頼んでいるのだ。
「僕で良かったら」
そんな成り行きで朱里とのデートに至る。朱里はどちらかといえば『花より団子』のイメージで恋愛には興味無さそうだ。今までのようなことにはならないだろう。だが、大体誰ともそういうイメージで始まり結局は禁断の関係に陥ってしまうことを思い出す。ということは朱里とも......そこまで考えた後、祐樹は頭を振った。最近は何かと期待している自分が存在していた。その時パッと目の前に2枚のカラフルな紙が突き出される。
「じゃーん! カップル割引けーん」
祐樹は片方の紙を手に取るとポップな表記で書いてある内容を読む。『カップルでご来場いただいた場合2000円の割引!』12月から2月までの期限だった。
なるほど。企業努力による客足が減る冬に合わせたサービスか。確かに2000円の割引は格安だろう。
「男友達居なかったからさ、無駄になる前に先生と使おうって。それに冬の遊園地って夏に比べて人が少ないから待たなくて済むんだ。効率良く遊べる」
「へー、そういう利点があるんですか」
朱里の計画的な考えに感心する。いつもガサツで大雑把なチーム火鍋だが女の子らしい用意周到な部分もあるのか。
「さ、早く入ろ!」
「そんな急がなくても、遊園地は逃げませんよ」
えへへと笑う朱里は祐樹の腕をぐっと引っ張る。その目は子供のようにキラキラ輝いていた。