05
「うわぁ......人いっぱいだなぁ」
「冬休みですからね。家族連れも多いでしょうし」
駅のホームに大きな音を立てながら入ってきた電車はもう既に大勢の人が乗っていた。おそらく座る場所は存在しないだろう。目的地に着くまで数駅あるが辿り着く頃にはギュウギュウの鮨詰め状態になりそうだ。
「朱里、満員電車苦手なんだよな〜」
「はは。得意な人間なんていませんよ。僕も学生の頃は毎朝、こんな状態で通学してました」
「そっかぁ。ずっと地元の学校だったから電車通学の経験なくてさ、こんなの毎朝だったら疲れちゃうね」
ぷーっと頬を膨らませた朱里。ゆっくり開いた扉から数人乗客が降りると人をかき分け乗り込んだ。車内は立つ場所すら余裕が無くなっていた。自然と向き合う形に収まり祐樹は近くにあるつり革につかまった。
「スマホ触る余裕すら無いね」
「そうですね。まずカバンから物を取り出しにくいですよ」
朱里は手提げバックを持っていたが何か行動を起こすだけで隣に立っている乗客に肘がぶつかってしまいそうだった。
ガタンと電車は動き始めた。朱里はフラフラしている。
「あ、そういえば、火鍋の皆さんとお別れは言ったんですか?」
「うん。あいつらから寄せ書きもらったんだ」
寄せ書きという言葉に懐かしさを覚えた。自分も卒業する度に夢や仲間への思いを書いたりしたものだ。
「離れるっていう実感が湧いてさ、その時泣きそうになったんだけどあいつらが泣かないから朱里も泣かなかったよ。無理しちゃってさ」
「......いい仲間に恵まれましたね」
「そうだね。先生、あいつらのこと頼むな」
自分に何ができるのだろうか。だが朱里の頼みなら彼女達が卒業するまで支えてあげたいと思った。
朱里の笑顔に対し、祐樹も笑顔で返す。
電車が次の駅で止まり、扉が開いた。
「わわっ、すごい人」
大きな駅で人口の多い街だからか、大勢の人が乗り込んできた。小柄な朱里は人の波に流されそうになり、どんどん押されていく。
「んー......押しつぶされそう」
「あ、ちょっと、朱里さん......」
流されるまま朱里は祐樹の身体に密着してしまい、朱里は腕を胴体に回した。
身体に掴まっているというより、ほぼ朱里に抱きしめられている状態に近い。顔も祐樹の胸あたりに埋めている。だが朱里は全く気にする素振りを見せない。ドクドクと彼女の心拍数まで伝わっている。離そうにも満員となった電車の中では動くことすら出来なかった。
「どうしたの先生? また朱里の顔見て」
「あ、いや何でもないです」
不思議そうな顔を浮かべた後、朱里は再び顔を埋めた。
柔らかい感触に祐樹の心臓は高鳴る、それを悟られてはいけないと冷静に努めようとした