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「関係ないお前たちを巻き込んですまなかった」
ゆりあは深々と頭を下げる。その姿がチーム火鍋にとってはありえない光景だった。あのマジックが格下の自分達に頭を下げている。チーム火鍋は口をあんぐりと開け、それぞれ顔を見合わせた。
「むしゃくしゃしててさ。自暴自棄になってたんだ」
「あ、え、そう、だったんすね......」
5人の先頭に居る朱里がなんとか受け答えをするものの、どうしたらいいか分からなかった。助けを求めるようにゆりあの奥に居る祐樹に目線を送る。
デートの帰り、ゆりあはチーム火鍋に謝りたいと自ら提案した。だが自分からだと足が進まないので祐樹に中を取り持ってほしい。その提案を祐樹は了承し、放課後の教室に彼女達を残しゆりあを連れてこさせた。
「ゆりあさんは心に傷を負ってたんです。だからと言って皆さんを殴ったのが許されるわけじゃないですけど。それでゆりあさんが皆さんに謝りたいって」
「あのマジックが謝りたいだなんて......」
「お、おい! クソガキ」
涼花がポロっとこぼした本音に対して隣に居た玲奈が肩を叩いた。再び機嫌を損ねでもさせたら大変だ。そんな二人をゆりあはチラッと見たがそのまま朱里に近づいた
「ウオノメ......だっけ。身を挺して仲間を守る姿、かっこ良かったよ。さすがリーダーだな」
「え、いや、当然のことをしただけです......」
「大切な仲間を傷つけてごめんな。何かあったら呼んでよ。力になれると思うから」
「は、はい」
「な、なぁ。先生ってすげえな......」
「あのマジックまで......」
後ろの方に居る奈月が美音に耳打ちをする。荒くれ者のヤンキーを大人しくさせてしまう祐樹の手腕はつくづく驚かされる。
終始朱里達は緊張していた。それでもゆりあの気持ちは伝わっていたようで最後はお互い笑顔で全員と握手を交わした。一件落着、といったところか。じんわりと温かくなった気持ちを抱えながら廊下を歩いた。
だが、その時だ。急に身体が冷えるのを感じた。まるで心を冷たい光線のようなもので撃ち抜かれたような。
ハッとし祐樹は振り向く。案の定だ。廊下の奥に腕を組んで仁王立ちでこちらを睨んでいる生徒がいる。
紛れもなく杏奈だ。紫のスカジャンを着た杏奈はズンズンと早歩きでこちらに近寄ってくる。
「あ、杏奈さんどうも......」
「......ちょっと来い」
着いて早々、挨拶もせずに祐樹の腕を引っ張り誘導する。杏奈の目は睨みを利かせている。前のようなワクワク感はない。頭の中では自分がボコボコにされる映像を想像していた。裏切ったのは自分だ。