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ゲームセンター特有の耳をつん裂くような大音量に加え、土曜日ということで家族連れや子供、そして若者カップルで店内は騒がしかった。住んでいる地域にあるゲームセンターとは人の数が雲泥の差だ。
ゆりあはクレーンゲームにかじりついたまま動かない。さっきからウンウン唸っている。そんな彼女を祐樹は少し後ろで眺めていた。
杏奈はゆりあと遊びに行く際、ゆりあを眺めていることが多いらしいがなんとなく杏奈の気持ちが分かった気がする。周りのことをあまり気にしない彼女は自分勝手にどんどん進んで行くのだ。もしかしたら、ゆりあの周りには友達が少ないのかもしれない。というより、信頼している人間としかつるまないのだろう。
「あー! もうー!」
癇癪を起こしたゆりあはクレーンゲームの壁をグーで叩いた。ボンッという音が鳴る
「ゆりあさん、取れないからってゲームに当たってはいけませんよ」
「だって、全然取れないんだもん」
「どれが取れないんですか?」
「あれ。あの熊のぬいぐるみ!」
指差す先には他のぬいぐるみに埋もれるようにして座っている茶色のぬいぐるみがあった。ゆりあが何度か挑戦したようだが、動かした気配が無い。
「ああ、難しいですよね。100円貸してくれますか?」
「別にいいけど」
ゆりあは財布から百円玉を取り出すと、投入口に入れた。ゲームからは縁起のいい音が鳴ると共に操作ボタンが光った。景品のぬいぐるみまでの距離とクレーンの爪の位置を確認し、ボタンを押した。スルスルと目的に向かっていくとぬいぐるみを潰すようにクレーンが覆いかぶさった。そして上へ上げると同時にクレーンがぬいぐるみとタグを繋ぐ紐に引っかかるのだった。
「すごい! なんで!」
ゆりあは感嘆の声をあげ、クレーンからダランとぶら下がったぬいぐるみを目で追った。出口に落ちていったぬいぐるみを取り出し口から出すと、それをゆりあに渡した。
「はい。どうぞ」
「え、ほんとすごい! 祐樹って達人なの!?」
「達人って程ではないかもしれませんが、大体のものはいけるかもしれませんね」
「マジ! じゃああれ取ってよ。お金なら出すから」
ゆりあにグイッと腕を引っ張られそのまま次のクレーンゲームへと誘われる。それから複数のゲームをプレイをしたが自分が景品を取る度にゆりあは子供がはしゃいでいるような声をあげた。喜んでくれるのは素直に嬉しい。いつのまにか自然と手を繋いでいた。
ーーーー
「いや〜良い友達を持ったなぁ。私って人を見る目があるのかも」
ショートケーキをフォークですくい上げるとゆりあの口に吸い込まれていく。クレーンゲームでお金を出してくれた代わりに、祐樹はフードコートでゆりあにランチを奢ることにした。杏奈が言っていた通り、ゆりあは甘いものが好きなようだ。ケーキ2つにアイスクリームというラインナップ。祐樹は吐き気がしそうだった。
「杏奈さんとか横山さんとかみんな良い人ばかりですよね」
「そうだね。まぁまだあいつらのとこに戻れる気がしないけどね」
時折、会いたいと思うこともある。だが相変わらずプライドと癒えない傷が邪魔をしている。もしかしたら慰めの言葉すら邪険に感じてしまって杏奈達に当たってしまいそうだった。
「ゆりあさんのタイミングで良いんです。焦らなくても、杏奈さん達は待ってくれますから」
「うん。ありがと。ところでさ、祐樹って杏奈と付き合ってるの?」
突飛な質問に祐樹は心の中心を急に矢で突かれたような気がした。思わず目を逸らした。
「急になんでそう思ったんですか?」
「だってさ、おたべの事は『横山さん』って呼んでるのに杏奈のことは『杏奈さん』って呼んでるじゃん。なんでもない関係とは思えないんだけど」
鋭い指摘だ。というか自分に落ち度があった。杏奈だけ名前で呼ぶのは不自然極まりない。
「えーと、まぁゆりあさんみたいに友達ですよ。付き合ってはないです」
「ほんとー? 杏奈の反応からして友達以上な気がするんだけどな」
咄嗟に嘘を付いた。そんな祐樹を見てゆりあはフォークを口に咥える
「杏奈さん僕のこと何か言ってたんですか?」
「ううん。夏休み終わったぐらいからかなぁ。杏奈、明るくなったんだよね。だから彼氏でも出来たかなって思ってさ」
「あーなるほど......。友達が出来るのだって嬉しいことですよ?」
「ま、それもそうか」
苦し紛れの言い訳であったがなんとかゆりあは納得してくれたようだ。ゆりあはフォークをスプーンに持ち替えアイスクリームをすくい上げた。よく考えたらアイスクリームは杏奈と食べたものだ。
恋人の友達とデートすること自体良くないことだが、自分のせいで杏奈とゆりあがゴタゴタするのは避けたかった。