13
眠りの奥で小鳥の声が聞こえていた。朝はもう上着が無いと厳しい寒さでも小鳥は生きるために餌を探さなきゃならない。人間に生まれて良かった。夢なのか現実なのか、部屋のテレビの音も聞こえる。朝のニュース番組だろうか、ハキハキとした声が聞こえていた。
まぁいいや。もう少し寝てから考えよう。祐樹は寝返りを打つと再び深い眠りに入ろうとした。
「起きろーー!!」
そんな思いは脆くも崩れ去る。叫ぶ声と共に重みのあるものが勢い良く体の上に乗っかってきた。祐樹はそれに驚きパっと目が覚めた。重みの有るものをぼやけた視界で確認する。丸顔で黒髪、ピンクの服を着ている。視界が徐々にクリアになっていくと、それが木崎ゆりあであることが分かった。だが何故彼女が自分の部屋に居るのか祐樹の寝ぼけた頭では見当もつかず、じっと馬乗りになっているゆりあを見つめた。まだ夢でも見ているのか?
起動したパソコンがデータを読み込む感覚で頭の記憶を読み返すと、昨日のことを思い出した。
「ああ......俺が言ったんだった」
ゆりあは不思議な顔で祐樹を見ていた。
ーーー
ゆりあと友達の握手を交わした後だ。自分だけでも気にかけていれば大丈夫だろうと思った祐樹は一先ず、この場を締めようとしていた。
「さて、僕は仕事がまだ有るのでもう行きますね」
「うん、ありがとう。助かった」
「いえいえ、いつでも力になると言ったので」
くしゃっとした笑顔は彼女の魅力かもしれない。頭を撫でたくなるのをぐっと堪えた。ゆりあは朱里達を傷つけた張本人でもある。だが今回の相談で祐樹はそれを口に出すことはなかった。また別の機会にと思っていた。
「ねぇ、祐樹っていつ頃仕事終わるの?」
「仕事ですか? そうですね......早ければ6時、遅ければ8時くらいですかね。どうかしたんですか?」
「うん、これから祐樹の家に泊まろうと思ってさ。いいでしょ?」
最初言われていることがよく分からなかった。それよりも下から覗き込むように祐樹を見上げ、首を傾げたゆりあ。その仕草にドキッとしてしまう。
「冗談、ですよね?」
「冗談じゃないよー、祐樹の事もっと知りたいんだ。あ、もちろん恋愛感情は無いよ」
「待ってくださいよ。だったらこうやって学校で良いじゃ無いですか。なんでわざわざ家に泊まるんですか」
「素の祐樹を見たいの。先公の祐樹じゃなくて友達としての祐樹をさ」
「......ダメですよ。生徒を泊めるなんてやってはダメなことですから。素直に帰ってくださいね」
祐樹としてもゆりあにときめいていた。自分が教師でなければ空にに羽ばたくような気持ちになっていたのかもしれない。
ゆりあは頬を膨らませ、表情が曇った。
「......力になってくれるって言ったのに。また裏切られた」
「あ、ゆりあさん......そういうつもりじゃ」
今にも泣き出しそうなゆりあの顔。どうも自分は不利な状況に追い込まれやすいようだ。いや、逆に言えば幸運な状況でもあるのか。そう考えた祐樹はゆりあで淫らな妄想をしてしまった。ガードが堅そうなゆりあに限ってそんな展開になることはないかもしれない。それにもう断る術は無いだろう。
「分かりましたよ......」
「......いいの?」
ゆりあは瞳には涙が溜まり溢れる寸前だった。
「力になるって言ったから。約束は守りますよ」
「へへっ、やっぱり優しいな」
再びくしゃっとした笑顔に戻った。自分はこの笑顔を独り占めしたいのかもしれない。
「じゃあ、準備したら校門の前で待ってるね!」
ゆりあは走って教室を出て行く。それを見て祐樹は一つため息をついた。生徒と関係を持ちすぎたせいか、彼女達で自分の気持ちを満たしている気がした。美音が初めて家に入れた時はあんなにビクビクしていたのに、今となってはすっかり落ち着いている自分が居た。女性の扱いに慣れてきたのだろうか。それとも女子高生を誑かすことに味をしめてしまったのか。自分の中にゆりあに対するあわよくばという気持ちからして後者なのだろう。もう自分はダメかもな。心の中で呟くと祐樹も教室を出た