第六章/ゆりあ
11
 ある意味当てが外れた。そんな感じだった。男を誘惑するような表情を作って話しかけたのにこの男は真っ先に自分のことを心配する言葉をかけた。もっとぶっきらぼうに対応されると思っていたのに、心から自分のことを気にかけてくれいるのを感じてしまった。それにすっかり拍子抜けし毒気も抜かれてしまったゆりあは男の優しい言葉にしがみついた。


「周りから見ればさ、チャラチャラしたカップルって思われてさ。どーせすぐ別れるんだろって言われてた。でも私はさ、リョウタのことが大好きだったし、リョウタも私のことが大好きだと思ってた」

 誰も居ない教室で机の上に座ったゆりあは俯きながらポツポツと語り始めた。祐樹はそんなゆりあを直視せず外の方を眺めながら聞いている。ゆりあは寒い時期だというのに相変わらず短いスカートからムッチリとした太ももを露出させていた。どうしても目線が行ってしまう。こんな真剣な話をしてる時に邪な思いを持ってしまっては幻滅されてしまう。そういった理由から祐樹はゆりあを直視しなかった。

「そのリョウタさん? から別れを告げられた原因はなんだったんですか?」

 『リョウタ』とはゆりあの元恋人の名前である。他校の生徒で先程プリクラを見せてもらったが、『一生恋人』と書かれた文字の下にゆりあと腕を組んだいかにもチャラチャラした茶髪の俗に言うイケメンが写っていた。自分とは真反対だ。祐樹は顔をしかめた。

「遊びだったみたい」

「......遊び?」

「うん」

 

 何週間か前、ゆりあはいつものようにリョウタとのデートを行っていた。制服姿でゲームセンターや服屋を回るのがいつものデートプランだ。そして一通り回ると、リョウタはゆりあをトイレに連れ込む。未成年であるためにラブホテルは使えない。なので、セックスをするときはいつもトイレでするのだ。スマートフォンをいじっているゆりあは、手を引かれると笑顔で応じる。セックスをすると愛が直接感じ取れる気がしていた。
 
 散々体を弄られた後、ゆりあは壁に手をつき大暴れする男性器を受け入れる。ゆりあは口元を手で押さえ、喘ぎ声が漏れないようにいつも必死だった。また愛が深まった。終わった後は高揚感によるそんな余韻で満たされていた。
 ただ、そんな余韻がリョウタの言葉でぶち壊された。

 俺、明日から他の女と付き合うから。

 突然言われた言葉にゆりあは服を直していた手が止まった。暖かい室内から急に寒い外へと放り出されたように心が凍りついた。冗談だよね?ゆりあは笑顔を作ったが、思わず引きつってしまった。罪悪感も何も感じていないと言った表情のリョウタはスマートフォンを操作すると、ゆりあの顔の前に突き出し、画面に映っている画像を見せた。自分以外の女とのツーショット。まっ金髪で醜さを隠すような濃いメイクをした女は自分より可愛いとは思えなかった。彼曰く同じの高校の生徒だという。スマートフォンを顔から離されるとゆりあは目のやり場に困った。というより視点が定まらなかった。
 せめて相談くらい、さ。ほら、私たち恋人なんだからさ。動揺しているのを悟られまいとするが、声が微かに震えてしまう。

 だってお前だって別に俺のこと好きなわけじゃなかっただろ。

 その言葉にゆりあは愕然とする。心臓がバクンと跳ねたような気がした。そんなゆりあにリョウタは一言、今までありがとう、と言うとトイレから出て行った。
 
 1人残された男子トイレの個室でしばらくゆりあは床に座り込んだ。ショックを通り越し何かを喪失し気が抜けたように体に力が入らない。頭の中ではリョウタとの思い出がどんどん出てくるが、色が抜けたモノクロ写真のようにしか思い出せなかった。私が気にくわないことでもしてしまったのだろうか。心臓がズキズキと痛い。考えていると頭がパンクしそうだ。

 ガチャンと音がする。その音にゆりあが気づき扉の方を見ると、年配ほどの男がゆりあを不思議な表情で見つめていた。リョウタが出て行ってから鍵を気にしていなかった。というよりそこまで神経が行かなかった。
 ゆりあはハッとするとカバンを抱え上げ、男を突き飛ばしながら個室を走りながら出た。


----

「ふうん......。引く手数多なんでしょうね。そのリョウタさんって方は」

「うん。チャラ男ってやつ」

 男としてそんな経験をしてみたいものだ。自分の高校生時代など女性にほぼ無縁だった。真面目にやっている自分より、規則を破った不良や髪を染めている同級生の方が女子に人気があった。よく横目で見ては妬んだもの。
 そういえば、今は自分もそんな状況じゃないか。美音を誑かし、南那の処女を奪い、今は杏奈をやきもきさせている。あまりリョウタのことをとやかく言えない状態かもしれない。

「.....木崎さんだって、モテるんじゃないですか? その中に良い人だってきっといますよ」

「まあね。街歩いてるとナンパとかよくされる。でもさ、その人じゃないとダメ、って思うじゃん? リョウタよりイケメンはいるかもしんないし、性格良い男だっていると思う。けど、リョウタじゃなきゃ嫌なの」

「そんなものですよね。恋愛って。好きになった人が運命の人、僕も何度思ったか」

「うん、運命の人だからリョウタは私と別れた事を後悔してるんじゃないかな、って思ってる。もしかしたらプライドがあって私に連絡することを躊躇ってるかもしれないって。でも、多分違うんだよね」


 ゆりあの表情には生気が感じられなかった。顔に大怪我負った朱里とは違った痛々しさがある。外的な傷と内的な傷。治るのはゆりあの方がずっと遅いのだろう。








■筆者メッセージ
リョウタは涼花が男装した時の名前です。職員室のシーンで祐樹は緑茶を飲んでいますが、なぜ緑茶なのかといえば自分はコーヒーが飲めないからです笑

マジックのイメージとしてスカジャンに派手な髪型がマジすか4でもスタイルですが、自分の中では普通の女子高生の格好のイメージで書いています。ゆりあがGTOに出てた時の服装や髪型を思い浮かべると良いかもしれません

RYOさん
お、いい線行ってますね笑 ゆりあは祐樹を好きになるんでしょうかね
オレンジさん
せっかくなんで毒気を抜いてやりましたよ笑
T2さん
ゆりあはたまらんですよね。ジュリの次にたまらんです

ハリー ( 2016/10/22(土) 11:28 )