05
数日経った放課後だ。これだけ胸騒ぎがするのは久しぶりだった。原因は分からない。座っているのが落ち着かない程だった。外を確認しないといけない。そんな不思議な感覚に襲われていた。
立ち上がり、マグカップにいつもの飲んでいる緑茶を汲むと、そのまま窓へと移動し外を確認した。なんだろうか。外から見える街はいつもと変わらない風景だ。自宅への通り道の商店街もここから見える。今日の夕飯は『亜粗美菜』で食べようか。そういえば、風呂場の電球が切れていたことを思い出した。昨日、風呂に入ろうとした際に切れていたことに気づき、真っ暗の中入浴したのだ。電球というものは突然切れるものだ。どんどん光が弱くなっていくような仕様にすれば、こちらも備えて用意するのに。
もしかしたら胸騒ぎの原因はこれかも。祐樹は胸を押さえ体に問いかけてみたが、もやもやは治っていなかった。やはり違うのだろうか?だが、電球の買い忘れは避けたかった。手帳を取り出すと、今日の日付の欄に『電球』とメモをした。果たして、帰りに手帳を確認するのかは自分自身疑問があるが書かないよりはマシだろう。祐樹は胸ポケットに手帳を閉まった。
それから1時間、治らない胸騒ぎを抱えながら仕事をこなしていたが空気の入れ替えをしないばかりに空気が籠っている気がしていた。息苦しくなった祐樹は席を立ち上がり職員室から出ようとする。気分転換も兼ねて少し歩くことに決めた。
ガラガラと扉を開け廊下に出ると、澄んだ空気を吸い込むと同時に遠くの方からバタバタと走る足音が聞こえた。
足音の方をじっと見ていると、1人の少女が走ってきた。茶色のカーディガンを羽織った奈々だ。長いポニーテールをなびかせ走る姿はアスリートのようである。だがその表情はとても必死に見える。
「あ......! 先生!」
どうやら自分に用があるようだ。全力疾走してるということはとても重要な事案なのだろう。奈々は祐樹の前で止まるとはぁはぁと息を吐くと、苦しそうに胸を押さえた。
「ど、どうしたんですか? 奈々さん。そんなに急いで」
すると奈々はキッと祐樹を見上げると腕を掴み引っ張った。
「......ちょっと来て!」
「え、ええ?」
「いいから黙って来て!!」
訳も分からぬまま奈々に引っ張られ走っていく。何かあったのだろうか?よく美音たちに腕を引っ張られることはあるが、それに比べて奈々はかなり必死だ。嘘を付かない奈々だけに祐樹の心には不安がドッと押し寄せた。
奈々に引っ張られるがまま、走っていると目の前には保健室が見えている。ここも通り過ぎるだろうと祐樹は思ったが奈々の足が止まる。保健室に用事があるらしい。誰かクラスの生徒が怪我でもしたのか。心臓が高鳴りを覚えていると、奈々が勢い良く扉を開けた。
だが、そこにあった光景が祐樹はすぐに理解出来なかった。唖然として言葉が出ない。何が、何があったんだ。腕を掴んだままの奈々も悲しそうな目で祐樹を見ている。
祐樹は傷と痣だらけのチーム火鍋を見てただ呆然と立ちすくんだ。