第五章/彩希
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「うあ……」

 汗を流し身体が綺麗になると、ドッと疲労が押し寄せた。部屋に一つだけ存在するベッドに寝転がるとぼんやり天井を眺めた。ベッドも使って良いと彩希が言ってくれた。その彩希は祐樹と入れ替えで入浴している。シャワーの音が聞こえてくる。

 ダボダボのTシャツにダボダボのハーフパンツ。彩希の兄の物ではあるが、着ているのは彩希だそうだ。
ただ下着だけは抵抗があったため、ハーフパンツの下は何も履いていない。
 ベッドからは微かに甘い匂いがした。彩希の匂いだろうか。その匂いで眠気が増したのか、祐樹の目は次第に虚ろになっていった。

 浅い眠りの状態で数分が経った。そのまま深い眠りに付きそうだった祐樹は突然腹部に振動が伝わり目がパッと覚める。

「んんっ、村山さん……?」

「えへっ、起こしちゃってごめんね」

 紛れも無く馬乗りになっているのは彩希だ。祐樹と同じくダボダボのTシャツを着ている。彩希は祐樹の顔をじっと見つめている。

「えーと……どうしたんですか」

 彩希の表情は祐樹を誑かしていたときの玲奈の表情に似ていた。


「んー、先生とさ、エッチしたいなぁって」

「何言ってるんですか? 見返りにお金なんて言われても持っていませんよ」

「お金なんか要らないよ。単純にエッチがしたいだけ」

 自分は援交のターゲットになってしまったのか。もしかしたら彩希はそのために自分を部屋に招き入れたのかもしれない。誘惑に負けセックスをした後に警察に突き出される映像が頭に浮かんでくる

 祐樹は疑念の目で見つめる。すると彩希は一つ溜め息を吐いた。さっきまで祐樹の胸辺りに置いてあった手を自らの腰に据える。

「もー。信用されてないなぁ。まぁ信用しろって言う方が難しいか」

 疲れていた祐樹の身体は重たくて上手く動かなかった。乗っている彩希を退かす気力もない。なんて言えば説得出来るのだろう。と考えていると彩希は祐樹の横に寝転がる。幼い顔がすぐ近くに迫っていた。

「先生とこうやって話してるとさ、自分がどれだけ汚れているか分かっちゃうんだ。先生、馬鹿みたいに純粋じゃん? だからさ、もう援交は辞めようって思ったんだ」

 自分は純粋ではない。生徒に手を出す変態だ。ただ、欲望に忠実という意味では純粋なのかもしれない。

「申し訳ないですよ。自分はそんな村山さんが言う純粋な人間じゃないんです。本当に純粋な人は生徒の家に泊まったりしませんしね。それにせっかく援交を辞めるって決めたのにセックスをしてしまったら何も変わらないと思う。更に汚れてしまいますよ」

「違うよ。汚すんじゃない。私の事を綺麗にしてほしいの。この汚れた私の身体を……先生じゃなきゃ、嫌……」

「村山さん……んっ」

 言葉を発する前に祐樹の唇にはしっとりとしたものが重なった。
暗闇の中で生きていた彩希の唇は思っていたよりも温かい。言いたい事聞きたい事はまだある。だが彩希の柔らかい唇から全てが伝わったような気がした。
 この少女を明るい世界へと連れ出したい。祐樹は思わず彩希を抱きしめた





■筆者メッセージ
蒸気機関車に石炭を放り込んでいる状態です。暴走寸前でっせ。

前回の筆者メッセージで読者にAKBファンが居るかを聞いたんですが、なぜ聞いたかと言うとイベントの現場でもしかしたら読者さんが近くに居るかもしれない。なんて思ったんですよね。

オレンジさん
自分も同じ感じですね。住んでいる所が田舎なので遠出がキツイんですよね。
地方組のメンバーが好きなんですね。
ハリー ( 2016/09/04(日) 11:43 )