17
腹が満たされ、少しは気持ちが楽になった。心に付いていた細かい傷が癒えているような気がする。
伝票を持って自分と同い年くらいであろう、ウエイトレスに注文した分の金額を払う。
「ちょっと、トイレに行ってくる」
「あ、じゃあ外で待ってますね」
彩希は頷くとレジの近くにある化粧室に駆け足で向かった。よく考えたらさっきまで交番に拘束されて居た為にトイレに行けてなかったのかもしれない。話している最中も催してたのを我慢していたのだろう。
会計を済まし店の外に出た。日付が変わるまで後1時間程だが、車が交差点を行き交う音でうるさかった。
ファミレスということもあるが、会計は千円札1枚で収まった。彩希が頼んだパフェは祐樹が頼んだオムライスの半額程の値段だった。もう少し言ってあげればよかったかな。レシートを見ながら祐樹は申し訳なくなった。
きっと気を使ったのだ。普段から質素な生活をしているのだろう。こんなときにでも贅沢をさせてあげたかった。
「おまたせ」
声に気付き後ろを振り返ると、黒いハンカチで手を拭きながら彩希が店から出て来た。そういえば彼女の服装も黒色が多い。彼女なりのスタイル、なのだろうか。
「じゃあ、もう遅いですし、家まで送ってあげますよ」
「ありがと。こっち」
歩いてここまで通っているなら、家も近いのだろう。終電まではまだまだ余裕がある為、送って行ってからでも間に合う。彩希が指差した方に2人は歩き出した。
ーー
「マジ女の先公だったの!?」
暗い夜道、彩希は驚きの声を上げる。やはり衝撃的なことらしい。
「先生も災難だな……ヤンキーばっかり相手にして」
「まぁでも楽しいですよ? 個性的な人に囲まれて。村山さんともこうやって分かり合えたし」
「そんなこと言う奴初めてだよ」
大人達は皆自分達に軽蔑の眼差しを向けていた。人間は個性が尊重されるらしいが、寧ろ制限されているように感じる。勿論、好き勝手やっているのは自分自身の為その眼差しに文句は言わなかった。
「チーム火鍋って知ってますか?」
「知ってる。私らと同じ学年のグループだろ? ウオノメとか。他にもラッパッパのメンバーは知ってる」
「やっぱりどこでも有名なんですね。僕は火鍋のみなさんのクラスの担任だったんですけど、最初は全員に無視されてたんです。でもそのうち仲良くなって、連絡を取り合う仲にまでなりました」
朱里や美音達と会えない寂しさからか、今日会ったばかりの彩希に自分のことを話してしまっている。祐樹はぼんやりと彼女達の顔を思い浮かべた。
「ふーんそうなんだ。でもなんとなく分かる気がするよ。先生優しいもん」
「中身はそうでもないんですけどね。ありがとうございます」
中身は生徒と関係を持つ変態だ。彩希の言葉に祐樹は俯き苦笑いを浮かべた。
「あ、家ここだよ」
ふと目線をあげるとそこには二階建てのアパートが建っていた。他の住人は寝ているのか電気はどの部屋も点いていない。自分の住んでいるアパートより少し小さいくらいか。祐樹の予想通り、騒がしい街から15分程歩いた所にあった。
「さて、じゃあ僕は帰りますね」
「うん」
「それじゃ、また明日」
祐樹は手を振ると、通って来た暗闇の中へ再び歩き出した。
「……ねぇ待って」
だがそれは彩希によって止められた。祐樹の右手が彩希の両手に握られている。とても弱い力だった。