02
「はぁ? 全然分かんねえよ。もっと分かりやすく教えろカタブツ」
「うるせぇ。お前が馬鹿なだけだ。黙ってやれ」
仏頂面をした美音の頭を奈々が叩いた。美音は『うがっ!』と声をあげると渋々、文字が羅列している紙と向き合う。美音には難解な呪文にしか見えなかった。
「奈々さん、優しくしてあげてくださいね」
そんな祐樹は玲奈の相手をしていた。玲奈もまた難しい顔をしていたが、子供が不貞腐れているようで愛らしかった。その顔を間近でじっと見れるのは教師の特権かもしれない。
今日で火鍋メンバーの補修は3日目を迎える。ぶつぶつ文句を言ったり、途中に真子と南那が揶揄いに来たりしたが、彼女達の努力もあり課題はもうすぐ終わりそうだった。
1人で5人の相手は大変だと思ったが、奈々が気を利かせて手伝いをしてくれた為に幾分か祐樹は助かっていた。ぶつぶつ文句を言う火鍋のメンバーを上手い具合に指導してくれているようだ。
この補修が終わるのを寂しく感じている自分が居る。クラスの生徒なのだから明日も会えるし、しばらくはこの日常が続く。なのに、この空間がずっと続いてほしい。祐樹はそんな事を思っていた。
「ん? 顔に何かついてる?」
視線に気付いたのか、隣の玲奈が振り向いた。
「あっ、いや。玲奈さんて綺麗だなーって」
「なんだ急に。先生そんなキャラかよ」
言動に玲奈は笑った。確かに今まで美音や南那を除き生徒の外見を褒めた事などなかった。というより、不自然な発言だ。祐樹は反省する。
「……なんか、すいません」
「謝んなくて良いよ。褒められるのは嬉しい事だから。ありがと」
玲奈は微笑む。その表情に祐樹はドキッとした。自分が同級生ならば確実に恋をしていただろう。それと同時に邪な気持ちもムクムクと沸いて来た。なんて自分は単純な奴だ。祐樹はぐっと足に力を入れた。
「あ、今私で変なこと考えただろ?」
「えっ! そ、そんなわけ」
「やっぱり。自分の生徒で想像するなんてダメな先公だ」
意表を突かれた祐樹は動揺する。一瞬杏奈のことが頭をよぎった。だが心を読んだわけではない。きっと顔に出ていたのだろう。
「ねえ、先生は私とエッチしたいって思うの?」
「ちょっと玲奈さんっ」
思わず周りを見渡す。これが他の生徒に聞こえでもしたら大変だ。幸い少し離れた席に居る朱里達は課題に集中し周りの声は耳には入っていないようだ。祐樹は安堵する。
「誰も聞こえてないから大丈夫。で、どうなのエッチしたい? 教えて」
まるでギャルが童貞をからかっているようだ。玲奈は小悪魔のような笑顔を見せている。
「そんなわけないじゃないですか。高校生は恋愛対象に入りませんよ」
淡い期待をしてしまうが、熱くなった頭の温度を下げる様に冷静に返した。もちろん、理想は恋愛対象だ。
「へー、そうなんだ」
玲奈は真っ正面を向き持っていたシャープペンをくるくると回した。
「今、スカートの中に手を入れても良いよって言っても?」
「へっ!?」
ドクンと心臓が動いた。玲奈の目はさっきと違いトロンとしている。まるで今から行為を始めるときのように。
「先生なら……触って良いよ」
そう言うと玲奈は唇を噛み、課題に目を戻した。祐樹の目は玲奈のスカートから出てる生足に釘付けになる。目を逸らそうとしても身体は動いてはくれなかった。冷静になんてもうなれない。
ゴクン、と唾を呑み込むと前に向き直しそっと左手を伸ばした。手と玲奈の太ももの距離が数センチから数ミリまで近づく。ちょっとずつ近づける度、表情を確認するが玲奈は何の反応も示していない。
中指が太ももに触れた。何度も表情を確認する。相変わらず表情は変わらない。
祐樹は手のひらを載せた。しっとりとすべすべした感触が伝わると、男性器に血液が一気に集中する。
嬲るように何度もさすった。手の平では飽き足らず手の甲でも、そして左太ももも嬲る様に味わった。
こうなればあとは秘境を目指すだけ。祐樹の手は太ももを這う様にスカートへと上っていった。玲奈はどんな下着を付けているのだろう。幼さが残っているような柄だろうか、それとも愛らしい顔に似合わず妖艶な柄なのだろうか。
小指がスカートにかかる。だがそこから侵入を試みようとしたそのときだ。
ガシッと祐樹の手が何かに捕まれ、動かなくなる。それは紛れも無く玲奈の手だ。
「はい。逮捕」
そう告げられた途端、体温が氷点下まで一気に下がったような気がした。
玲奈はニンマリと笑っていた。それは小悪魔ではない悪魔の表情にしか見えなかった。