08
「情けない……」
稲光が見える度、奈々は祐樹を強く抱きしめる。隣の椅子から身体を伸ばすように抱きついている。
「雷は恐いものですよ。情けないことはないです。それよりその体勢で辛くないですか?」
「うん……大丈夫」
奈々は再び顔を埋める。恥ずかしさより恐さが勝ってしまっているのだろう。汗臭い身体で祐樹は申し訳なかった。
雨は弱くなったかと思えば、急にドッと降る。稲光も暴れ続け留まる事を知らない。あと一時間はこのままだろうか。雨が収まるのが先か生徒に対して下心が生まれてしまうのが先か。いや、下心はもう生まれている。ここぞとばかりに奈々の身体を触っているのだ。胸や尻に触れてはないが、背中は何度もさすっている。そして頭も。
「んん……」
相変わらず奈々は子供のように身体を震わす。
「奈々さん、家に居るときに雷が来たらどうしてるんですか?」
「布団被って耐えてる……」
厚手の羽毛布団の中に籠り、小説でも読んで気を紛らわしているのか。雷鳴が鳴る度に悲鳴を上げてる姿を祐樹は想像する。思わずフッと吹き出してしまった。
「あっ! 今バカにしただろ! 気にしてるのに!」
奈々が顔を上げ今にも泣きそうな表情で祐樹を睨んだ。
「すいません。そんな一面もあるんだなって」
「笑いたきゃ笑えばいいっ」
「ふふ、奈々さんのいろんな一面を見れて嬉しいですよ」
ぷくっと頬を膨らまし顔を埋めた奈々の頭をポンポンと撫でた。奈々の髪も綺麗な黒髪。黒髪が好きな祐樹にとって至福の時であった。
「こんなとこ火鍋なんかに見られたらバカにされる」
「はは。確かに。いつまでも揶揄われそうですね」
雷が平気が人間など居るのだろうか?祐樹自身、子供の頃は怯えていたが年齢を重ねるにつれ耐性が出来た。だが人間の根底に自然災害の恐怖は元々植え付けられているものなのだろう。おそらく朱里達だって、今頃恐怖に打ち拉がれているのではないか。こんなもの恐くねえよ。そう強がりながらもきっと震えているに違いない。
「でも、大丈夫ですよ。夏休みだし誰もいません。あとここに人はあまり来ませんし」
こうやって奈々と抱き合って居られるのは図書館だからだ。教室だったら躊躇っていただろう。