03
気温は高いが、窓から入ってくる風は涼しかった。夏の間であれば自分の部屋に居るより居心地がいいかもしれない。本を読むのには最適だ。だから奈々もわざわざ炎天下の中、図書館に通うのだろう。
窓際の席で黙々と本を読んでいる奈々。彼女はそれだけで一枚の絵になっていた。隣には本が顔の高さ程に重なっていた。彼女は基本的にはここで数時間滞在し、読書をしている。そして帰る時間になると更に大量に本を借りて行くのだ。
祐樹は1番上に積み重なっている本を取る。表紙に青文字で縦に「背中言葉」というタイトルが書いてある。確か個性溢れる大人数の女性アイドルグループをたった1人でまとめ上げたキャプテンの話だった。一時期巷で話題になっていた。
「岡田さんは毎日、本を読んでるの?」
「ん? ああそうだな。どんなときも本は手放さない」
奈々は祐樹の声に気付き顔を上げる。
「先生は読まないのか?」
「恥ずかしながら、全く読まないですね」
「へー、本読まなくても先生になれるのか」
棘のある言葉が祐樹の心に刺さった。頭も然程良くなかった学生時代、合格ラインギリギリで教師になった自分はこの学校以外に配属されていたら、ちゃんと勤められていたのだろうか。もしかすればこの学校に回されたのは教育委員会の陰謀でもなんでもなく、妥当だったからではないだろうか。
しかし、その学校で実は
初な生徒達と関係を持ってしまうのだから人生とは分からないものだ。
「それより、宿題はちゃんとやってます?」
気を取り直して祐樹は教師らしいことを聞く。自分でもくだらない見栄を張っているのに気付いているが、少しでも奈々に対抗したかった。
「宿題なんてとっくに終わってるよ。もっと言えば夏休み初日にな」
奈々は祐樹の見栄を簡単に打ち砕いた。相手が悪かったと後悔する。読書は何に置いても大事と言うが奈々を見ていると尚更そう感じた。
「立派ですねえ……美音さん達にも見せてやりたいですよ」
「はは。あいつらに宿題のこと言っても無駄だよ。絶対1ページもやってこない」
奈々の言う通り、暇だ暇だと言いながらゴロゴロしてるだけなのだろう。自分の生徒だが期待するだけ無駄なのかもしれない。
「岡田さんは、みんなと仲良いんですか?」
「まぁ、クラスメイトだし。悪くはないな。この前もウオノメに勉強教えてくれって頼まれたし」
「そうなんですか」
平均的が40点台のクラスで奈々は平均80を超える成績優秀な生徒だった。朱里が奈月のように補修を受けなくて済んだのは奈々のおかげかもしれない。