第三章/杏奈
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「雨止まないな」

「ですねえ。通り雨にしては長いですね」

 公園に2人が落ち着いてからというもの、雨脚の強さは変わらなかった。このまま止まなくても良いかもしれない。祐樹は心の中で呟いた。


「なぁ、今日の出来事はデートって言うのか?」

 杏奈の言葉に対して祐樹は一瞬ドキッとした。もしかしたら杏奈に告白されるのではないかとずっと思っていたからだ。

「そう、ですね。お互いがデートって思えばそれはデートなんじゃないですか?」

「ふうむ。じゃあ貴様はどう思っている」

 やはり杏奈から聞き返された。素直にデートだ、と言って良いものか。あくまでも自分は教師、腐っても教師だ。これでは杏奈に恋愛感情が生まれてしまっていることを悟られるのではないか。いや、そういえばもうとっくに悟られている。さっき心を覗かれたことを祐樹は思い出す。

「デート……かな」

 表情を伺うように祐樹は答えた。建前を取り繕ってもどうせ見透かされるのだ。そう思うと素直になる。


「そうか、私も同じだ。良かった」

 表情こそ変わらないように見えるが、杏奈は安堵していた。杏奈にとって一種の告白だった。
祐樹と初めて会った面談の日に、杏奈は祐樹から人と違うオーラを感じ取る。ヤンキーを何事も無く受け入れてくれる教師がいると噂では訊いていたが、ここまで柔らかいオーラを出している人間は初めてだった。そういうものに影響されやすかった杏奈は祐樹のことが気になり出した。

 そして今日に至る。杏奈自身、夏休みに入り出不精になっていた。その自分へのバツも兼ねて、太陽が燦燦と照る日に出かけたくはなかったが、外出することにした。いつもならゆりあを誘う。だが今回は『ゆりあへのお返し』という名目を作り1人で出歩くことに決めていた。
商店街でプレゼントを探しても良かったが杏奈のプライドがそれを許さなかった。誠意には誠意で返さなければ。楽をしてはいけない。そう思って出向いたのがショッピングモールだった。
 
 久しぶりに1人での電車を降り、ショッピングモールに入った。だが、杏奈はどうすればいいか分からなかった。プレゼントは一体どんなものが最良なのか、相場を全くと言って言い程知らない。こんなことだったらゆりあのことをもっと見ておくべきだったと後悔した。
 2階のフロアならもっと色々な物が置いてそうだ。そう思ってエスカレータで上り、歩いていたときだ。
ふっと通りかかった雑貨屋から気になるオーラを感じていた。もしかしたら、と思った杏奈は雑貨屋に足を踏み入れる。感じていたオーラを辿りながら人をかき分け進むと、見覚えのある後ろ姿を見つけた。
 あの教師だ。顔を見なくても分かる。杏奈の心には温かいものが溢れていた。




「なぁ、近くに寄っていいか?」

「え? 僕ですか?」

「だから他に誰が居るんというんだ」

 杏奈の柔らかな表情。薔薇の花の様に今までのトゲトゲしい感じではなかった。祐樹は周りをキョロキョロと見渡し、誰も居ない事を確認する。
 何も言わず杏奈の方を見た。杏奈が近づいて来る。
やがて身体に杏奈が触れた。 それと同時に杏奈を抱き寄せた。



■筆者メッセージ
ハッピバースデートゥーミー ハッピバースデーディア俺〜
誕生日が近いので自分を祝いました。
そいや、閲覧数が6万突破しました。見てくださりありがとうございます。最近サボり気味デス。
ハリー ( 2016/05/14(土) 22:00 )