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今朝の天気予報で降水確率は10パーセントとアイドルのような天気予報士が言っていた。確かにゲリラ豪雨の時期に徐々になりつつあるが、それももう少し先だ。周りを見渡せば傘を持っているのは杏奈だけ。雨を予感してるのも杏奈だけだろう。
「さすがに今日は降らないですってば」
祐樹の言葉に杏奈はニヤッと口角をあげる。
「私には分かる。今から確実に雨が降る。私の忠告を訊いた方が身の為だと思うが」
杏奈は超能力でも使えるのだろうか。杏奈の言い方は自身たっぷりという感じだ。例え、雨が降ったとしても小雨で済むだろうし、すぐ止むだろう。傘をわざわざ買う必要も無い、と祐樹はたかをくくった。
「ま、大丈夫ですよ。食器置いてきますね」
祐樹は器が乗ったお盆を持つとそそくさと食器置き場へと向かった。
椅子に深く座った杏奈はスマートフォンを開き、LINEを確認する。そんな杏奈の耳には周りの騒がしい声が入ってくる。昼時、フードコートは多くの人で賑わっていた。家族連れが多く目立つが、若いカップルも多かった。手を握りながら歩く自分より少し年上であろう男女を杏奈は目で追った。頬杖を付き『はぁ』と息を吐くとスマートフォンに目線を戻した。
杏奈は恋愛に興味が無い。面倒なものだと思っている。大体にして昔から異端だった杏奈に男など近寄って来なかった。一回チャラチャラした男達にナンパされたことがあった。上辺だけの言葉を並べて杏奈の身体を求めたが、その男達を杏奈は返り討ちにしたのだ。強気だった男達は悲鳴を上げ逃げ出した。
汚らわしいもの、とまでは思わなかったが、男は基本的にそういうものなのだろうと納得していた。人付き合いはゆりあで充分。それで自分の心は満たされていた。
だが最近、カップルを羨ましく思っている自分が居る。心が締め付けられるような感覚になぜか襲われてしまう。やはり自分もそういう時期なのだろうか。杏奈は自問自答を繰り返す。
「はい、入山さん」
いつのまにか席に戻っていた祐樹の声に杏奈は顔を上げる。すると目の前には小さなカップに入ったアイスクリームがあった。
「……私は甘いものが嫌いだ」
「あ、そうなんですか」
祐樹は椅子に座ると自分の分のアイスクリームをスプーンですくい食べ始めた。
杏奈に渡したアイスクリームはバニラ味だった。バニラを嫌いな人間など居ないだろうと思って選んだがそもそもの話だったようだ。
杏奈は甘いものに対して食わず嫌いだった。好んで食べたこともほとんどない。クレープやケーキなどばかりを好んで食べるゆりあを白い目で見ていたこともある。こうやってアイスクリームを目の前にしたのも久しぶりかもしれない。
「でも、おいしいですよ?」
「……」
杏奈はしばらく口を噤んでいた。
一口だけ食べてみるか、そう自分に納得させると重かった手が挙がる。
「……あ、おいしい」
少量のアイスクリームを口に入れると不意に言葉が出た。祐樹はそんな杏奈が微笑ましく思えた。
「やっぱり女性は甘いものが好きなんですね」
杏奈はハッとし顔が赤くなる。自分としたことがつい気が緩んで隙を見られてしまった。
顔の火照りを冷ますように、ひんやりとしたアイスクリームを口に入れた。