10
人やモノに興味が無さそう。そんなイメージを杏奈に大して抱いていたからか、杏奈の行動全てに新鮮味を感じた。ゆりあとの関係や思いやりの心があったこと、少しだけ浮かべた笑み、歩いている姿すら刺激的に感じる。好物はパスタだという。それにも新鮮味を感じた。杏奈はその好物のパスタを祐樹と向かい合いながら食べていた。
「なんだ。人の顔をそんなに見て」
「あ、いやなんでもないです」
祐樹は誤摩化すとラーメンをすする。雑貨屋で買い物をしたあと、てっきり解散になると思っていた。しかし杏奈は『どうせ暇だ』と祐樹の外出に付き合うことを告げた。再び生徒との行動に気が引けたが断ることが出来なかった。時刻は12時を有に過ぎていた為に店内にあるフードコートでの昼食を杏奈に提案した。杏奈も『奢りなら』と提案を呑み込んだ。
杏奈は美人だ。自分と不似合いにもほどがある。周りの人間からはこの関係をどう思われているのだろうか。長い黒髪を抑えながらパスタを食べる姿はテレビドラマのワンシーンを見ているようだ。多少の緊張感もあったが、そんな美人な女性がそばに居てくれるという優越感もあった。
「入山さんって、パスタ好きなんですね」
「それがどうした。女ならよくあることだろう」
「なんか、意外でした」
祐樹の言葉に杏奈はフォークを止めた。
「さっきからその言葉ばかりだな。私を一体なんだと思っている」
「ああ、気に障ったのならすいません。例えば、川栄さんや木崎さんは感情を表に出すタイプだと思うんですよ。逆に入山さんは寡黙というか、感情を出さないタイプですよね。だから、いろいろ新鮮に感じてしまって」
「そうか。マジックはともかくとしてバカモノはうるさ過ぎる。やはりソルトさんのような大きく構え、何事にも動じない人間に憧れている」
祐樹の思っていた通り、杏奈は島崎遥香を敬っていた。それも並大抵の気持ちではない。この風格も彼女に見習ったものだ。
「ラッパッパのみなさんって仲良いんですか?」
「決して悪いわけではないが、『仲良い』という言葉も何か違和感が有るな。最近、ラッパッパはまとまりが無いなんて言われているがそんなことはない」
空になった花模様の皿にフォークを置くと、杏奈は紙ナプキンで口元を拭いた。