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鍋物は火鍋に限る。同時に二つの味が楽しめるなんて最高じゃないか……
この辛味がたまらない。最近若い男が飽きもせずに授業を続けているが、そんなことはどうでもいい。火鍋の方が何百倍も大事だ。『ウオノメ』こと高橋朱里はグツグツ煮えたぎる鍋を目の前にして武者震いをしていた。
「いやあ〜、今日も火鍋が美味いなあ!!」
ウオノメは火鍋の具材を食べるといつもの様に叫んだ。
「そうだろう? 今日のは出汁が違うんだよ」
そんなウオノメを横目に『ケンポウ』こと内山奈月は誇らしげな顔をする。
「ケンポウは出汁を選ぶセンスはすごいよな」
『クソガキ』こと大島涼花はそんなケンポウをあざ笑う。
ウオノメ、クソガキ、ケンポウ、ドドブス、ジセダイの5人からなる『チーム火鍋』は祐樹が担当する教室の後ろの方で火鍋をするのが日課だ。今日も座って火鍋を囲んでいた。
「はぁ」
『ジセダイ』こと向井地美音は器と箸を置いて項垂れていた。
「どうしたジセダイ? 元気が無いぞ」
ジセダイの隣に居たクソガキは心配するように声をかけた。
「こいつ、またクレーンゲーム行ったんだよ。そんで何も獲れなかった」
項垂れて何も言わないジセダイに変わって、『ドドブス』こと加藤玲奈が説明をする。
「だって、全然獲れねえんだもん」
ジセダイは大のクレーンゲーム好きだった。一つのクレーンゲーム機に小遣いを全て注ぎ込んでしまう程。しかし、腕前が上達することは一切無く、火鍋のメンバーはジセダイが無駄遣いをしていることに飽きれていた。
ドドブスは続けて説明をする。ドドブスはいつもジセダイに付き合わされていた。
「今回の景品はさ、普通の腕前の奴がやっても難しいんだよ」
「じゃあ、ジセダイには無理だな。潔く諦めろ」
ウオノメはジセダイに箸を向けた。
「でもよ! このままじゃ負けたまんまじゃねえかよっ!」
立ち上がって力強く叫ぶジセダイを見て、ウオノメは溜め息をついた。
「全く、ジセダイの負けず嫌いも困ったものだな」