09
祐樹の手に再びフワフワとした感触が伝わる。もう戻れないところまで来ているのだろうか。
だが祐樹は撫でるのをやめるつもりは無い。美音は気持ち良さそうにしている。
美音の髪は黒髪でとても綺麗だ。ヤンキーの髪といえば茶髪や金髪でしかもボサボサな印象だった。少なからず美音はちゃんと手入れをしているのだろう。祐樹はそう思った。
撫でている手を美音の耳の辺りに持って行く。髪を撫でると指が美音の耳に当たった。
「あっ……」
美音は小さく声を出す。それに気付いた祐樹は薬指で美音の耳をなぞってみた。
「ひゃっ、んっ.」
「向井地さん、耳弱いんですか?」
「初めて知った……んっ」
指が耳に当たる度、身体をピクっと反応させる美音。祐樹も頭がぼうっと熱くなっていた。目の前に居る綺麗な少女は自分に対して心を開いてくれている。しかも女子高生だ。柔らかそうな身体。一瞬だけ見てしまった大きな胸。そんな少女は今、自分の指に感じている。祐樹は徐々に理性が崩壊し始めていた。
「向井地さん……」
「ねえ、名前で呼んでよ。向井地さんっての嫌」
美音は祐樹の顔を見つめる。祐樹は手を止めた。
「名前? 美音さん、ってことですか?」
「ホントは『さん』も付けてほしくないけど、先生だからしょうがないっか.」
「….…美音」
「バ、バカ!! 急に呼ぶな!!!」
美音の身体がビクンっと動く。美音は異性から名前を呼ばれることに慣れていなかった。祐樹はふふっと微笑むと再び、熱を帯びた美音の耳を触った。
物音一つしない部屋の中で濃密な時間が続き、祐樹の息も荒くなって来た。このまま美音を押し倒してしまえば、恐らく美音は受け入れてしまうのだろう。それは男のとしての悦びであるが、教師としては完全なるタブーである。その狭間でもがき苦しんでいた。
「なぁ、先生」
美音が小さな声で祐樹を呼んだ。
「なんですか美音さん?」
「その、先生なら、先生ならいいよ」
俯いていた顔をくっと上げ、モヤモヤしていたものを吐き出すように美音は言った。そして再び俯く。美音の伝えたいことを祐樹は十二分に分かっていた。祐樹自身ももがいている。
「何が良いのですか。美音さん」
「だから……その」
「ちゃんと言わなければ伝わりませんよ?」
美音は口籠った。この男は鈍感なのか、それともワザと言わせようとしているのか。美音には分からなかった。
「ウチがしたいのは……んっ!」
美音が言い出そうとした瞬間、祐樹は美音の唇にキスをした。