04
まさか自分が出遅れることになるとは。5人の中で一番容姿が良いのは自分。そう思って学園生活を送ってきた。男なんてお手の物。自分に恋人が出来ないのは女子校だから。決してモテないわけではない。というふうに理由付けしてきたが、どうやらそれは違うようだ。なぜなら仲間である朱里には恋人が出来た。それも相手は教師だ。朱里の恋人である教師は、自分の恋人になる存在としても一番近かった筈。
玲奈は目を細めながら、教卓で楽しそうに会話をしている朱里と祐樹を眺める。決して嫉妬心や羨む気持ちが湧いているわけではなかったが少しだけ玲奈の中では寂しさが生まれていた。
「ねぇ、涼花。ウチのこと好き?」
「な、なんだよ急に......」
「好きって言って。言わないと怒るよ」
横から聞こえる会話に玲奈は目線を向ける。それを見てため息を付いた。仲間内でカップルが出来たのは一組だけではなかった。頬を膨らまし怒る美音に困った顔をする涼花。この2人も同性ではあるが恋人同士だった。
「ウチと涼花も付き合ってまーす!」
祐樹と朱里が付き合ってることを公言した日のこと。涼花の腕を組んだ美音が満面の笑みで高らかに声をあげた。衝撃の告白にその場に居た祐樹を含め全員が驚いた顔をした。涼花は集中する目線に耐えられないのか恥ずかしそうにしている。
「いや付き合ってるってお前ら女同士じゃねえか」
奈々が混乱しながら真っ先に疑問を投げつける。
「なんだよ。女同士が付き合っちゃいけねえのかよ。カミソリとゾンビだってそういう関係じゃん」
「ああ、確かに......」
そういえばあいつらもそんな関係だった。それを思い出すと奈々は無理やり自分を納得させて落ち着かせる。
祐樹が転任した頃、2人が仲間内でも特に仲が良くなっていた。それは他の火鍋メンバーも気付いていたが祐樹の転任で落ち込んでいた美音が、いつものように元気を取り戻した、と思い特に不自然とは思わなかった。
「ほ、ほらこいつが落ち込んでた時期があっただろ。そん時に面倒見てやってたら、こいつがべったりくっついて離れねえんだ。だから仕方なくだよ。仕方なく......」
「涼花ひどーい『美音が好きだ。俺が守ってやる』って言ってくれたじゃん」
「おい! バカ!」
涼花は顔を真っ赤にし右手で美音の口を押さえたがそれは一足遅かった。
女同士のカップルではあるが愛に満ち溢れてるように玲奈の目には映る。心が通じあっているというのはやはり良いこと。ふと、朱里と祐樹の方に目を戻すと2人の指先が絡まっていた。自分の太ももを愛撫したこともあるあの指先は今は朱里を思う存分愛撫してるのだろうか。
「あーあ、すっかり出遅れたなぁ」
「ん? なにが出遅れたんだドドブス 電車か?」
玲奈のため息のような呟きに後ろの席で勉強をしていた奈月が反応した。
「ちげーよ。あれだよ、あれ。ウオノメもクソガキもジセダイもリア充になってさ。残ったのはウチらだけになっちまったな。こうなったらウチらも付き合うか? ははっ」
玲奈の指差した先を奈月は眺める。
「別にいいぞ」
「......へ?」
「ウチはドドブスのこと好きだぞ」
ニッと笑顔を見せた奈月。一瞬にあっけにとられた玲奈はハッとし立ち上がった。その勢いで机が床を引きずった音が教室に響き渡る。
「......ええええ!!」