第零章
01
 

 満開の桜、せめてそういったものさえあれば少しは気分が盛り上がるのだが、この学園にそんなものは無い。新任教師・斉藤祐樹はそんな状況を見て溜め息をついていた。有るのは乱雑に置かれた机や椅子である。普段は教室に正確に置かれている物だ。なのになぜか校庭に投げ捨てられている。
 朝、祐樹が出勤する際、生徒を見かける。それだけなら普通なのだがその生徒は殴り合いをしている。祐樹にとって映画や漫画でしか見たことの無い光景だった。
 
 祐樹が配属されたのは馬路須加女学園、通称マジ女。この地域では有名なヤンキー学校だった。

「おはようございます」

 祐樹は担当する2年生のクラスでホームルームを始めたが、机の上に座り大声で喋っている生徒がほとんどで、祐樹が挨拶をしても聞いている生徒など居る筈もなかった。あしらう、と言った様子も無く祐樹に対して無関心と言った方が正しかった。新学期が始まってそんな日々が続いている。
 教室を見渡し出席している生徒をチェックすると、祐樹は何も言わず教室を出て廊下を歩き始めた。頭の中は教師を辞めることしか考えていない。当初、自分が配属される学校が女学校だと聞き祐樹は表情には出さなかったが心が躍っていた。しかし今となってはそのときの自分が馬鹿みたいだ。

 もっと調べて置くべきだった。マジ女について無知なことを教育委員会に良いように利用されてしまったのだろう。これでは男子も女子も関係ないではないか…. むしろ普通の男子校の方が良かった。そんな憂鬱な事ばかり祐樹は考えていた。
 両親に何て言おうか。だがこの学級崩壊している現実を見せれば両親も納得してくれるだろう…….

 そのときだった。

ドカッ!

 祐樹は下ばかり向いて歩いていたせいか、目の前に立っていた生徒に気付かずぶつかってしまったようだ。

「おい!!! てめえっ!! どこ見て歩いてんだよ!!!!」

 スカジャンを着ている生徒は祐樹の胸ぐらを掴み、激しく怒鳴った。
廊下の真ん中に堂々と立っていればそりゃあぶつかってしまうだろうと祐樹は思ったが、いかんせん言い返せはしない。

「す、すいませんっ、今度は気をつけますから……!!」

 恐怖に震えた声で祐樹は生徒に謝る。生徒の鋭い目線は祐樹の顔を捉えたままだ。

「あ? いいか? 次ぶつかったら先公だろうがぶっとばすからな!!!」

 祐樹を突き飛ばすように離すと、生徒は歩いて行った。祐樹は後ろに倒れ込む。
こういったことに遭遇するのはこれが初めてではなかった。祐樹はケンカというものは得意ではない。むしろそういったものを避けて生きて来た。そんな人間が言い返したところで、一方的に殴られるだけである。 そんな弱者が生き残るには絶対歯向かわないことが一番だった。相手より下手に出れば殴られることも無い、が、完全に舐められる。だが痛い思いをするよりは何百倍もマシだった。

「はぁ、やっぱり早いとこ辞めよう」

 祐樹は立ち上がると溜め息をつき再び歩き出した。




 

■筆者メッセージ
あけましておめでとうございます。
いろいろあってこの話を復活することが出来ました。思い出しながらなので話が少し違っているところもあります。またこれからも書いて行きたいです
ハリー ( 2016/01/01(金) 10:50 )