第4章
02
この部屋の中に入れられてから

どのくらいの時間が過ぎたのだろう。

時計を見れば

すぐに分かるはずなのだが、

そんなことをする気力すら

2人の少女にはなかった。


身体を動かすわけでもなく、

ただじっと下を向いている2人の耳に

誰かが部屋の扉を開ける音が届く。


「どうも、初めまして。

 私は紗英って言います。

 少し、お話聞かせてくれるかな?」


ゆっくりと顔をあげ、

入ってきた人物を確認しようとする

2人だったが、

そんなことをする間もなく

1人の女性が声をかけた。


「はい...、大丈夫ですよ」


2人の少女は

それまで浮かべていた辛そうな表情を

少しばかり笑顔に変えながら

紗英の問いに答えた。


「じゃあ、あなた達の名前

 教えてくれる?」


「杏奈です」


「美音です」


「杏奈ちゃんに美音ちゃんね。

 それじゃあ、2人とも。

 あなた達が見た人の中に

 この人はいたかな?」


そう言うと、

紗英は1枚の写真を彼女達に見せた。


それは1人の初老の男が

映っている写真で

遠くから撮影されたようだった。


「この人の顔は見ました。

 ガスマスクみたいなのを

 被った人と一緒にいて

 この人が遥香さんを撃ちました」


杏奈がその写真を見て

ゆっくりと言葉を発していき、

質問に答え終わると

顔を再び

地面の方へと向けてしまった。


「ごめんね、

 辛いことを思い出させちゃって。

 聞きたいことはこれだけだから。

 教えてくれてありがとう」


紗英は2人に向かってそう告げると

その部屋を出て行った。


「柊也さん、

 写真の人はいたみたいです。

 この人が柊也さんの探してる人で、

 お兄ちゃんが...

 居なくなる前に

 調べていた人物なんですね」


紗英は右手に持った

写真を見ながらそう言った。

Joker ( 2016/03/13(日) 01:01 )