第2章
01
男は扉の前に立つと呼び鈴を押した。

仕立ての良い黒いスーツに身を包んだ

その男は左手にはめた

腕時計で時間を確認する。


「時間通りだな」


男はそう呟く。


彼が呟いた直後、目の前の扉が開き

見慣れた人物が顔を出した。


「やあ、よく来てくれましたね」


「どうもお久しぶりです、

 黒賀谷さん」


「久しぶりと言っても

 1ヶ月前にあったばかりですよ」


「そうでしたね」


「元気そうで何よりです。

 とりあえず中に入ってください」


「お邪魔します」


俺を建物の中に招き入れたのは

仕事で長年お世話になっていた

黒賀谷という人だった。


黒賀谷さんは1ヶ月前に

定年を迎えて職場を退社し

年下の俺に対しても敬語を使う

物腰の低い、俺が尊敬する先輩だ。


「さて、

 今日君を呼んだわけですが...」


黒賀谷さんは俺が

ソファーに座ったのを確認し、

目の前の珈琲を一口飲むと

ゆっくり話し始めた。


「君は新設された部署に

 配属されたらしいですね」


「ええ、昨日付で

 新部署に配属されました」


「その新部署はいつから活動を?」


「今のところは

 班員も決まっていませんし、

 未定になっているそうです」


「そうですか。

 それならばちょうどいいですね。

 それではあなたに

 一つ頼みたいことがあります」


「はあ、私的には

 特に問題はありませんが...」


「それならばよかった。

 あなたに頼みたいことの

 詳しい話をしましょうか」

Joker ( 2015/12/24(木) 01:26 )