第1章
06
「ほら、早く乗って」


遥香は何も言わず

彼の車の助手席へと座った。


「そこはふつう

 後部座席に座るもんだけどね」


玄を笑いながら言った。



いつ見てもいい笑顔...


遥香は彼を見てそう思う。

けれど


「乗ってとだけ言われたので」


と不愛想に返す。

玄はその言葉を聞き、

表情を苦笑いに変えながら


「まあ、そうは言ったけど」


と言い、自らの愛車を

遥香の家に向けて走らせた。



車をしばらく走らせるが、


「...」


「...」


車内に会話はない。



僕は遥香が元々

あまり自分から話をするような

人柄でないことは知っていた。


もちろん僕から話さなければ

会話がうまれないことも

知っていた。


けれど僕は話しかけない。


なぜなら遥香がずっと

僕の方向を見ていたから。

そのことには交差点を

左折するときに気が付いた。


僕が左の方、

遥香のいる方を向こうとすると


必ず遥香が

顔を背けるのが見える。



だから僕は遥香が

何か話したいことがあるが

話せないでいるのだろうと思い

待つことにした。

Joker ( 2015/12/12(土) 00:10 )